ラーメン&つけ麺食べ歩き
伊峡
(東京都 千代田区)

店名 中華そば 伊峡(いきょう)
住所等 東京都千代田区神田神保町1-4 【地図表示】
禁煙 タバコ可否不明
訪問日 2006年4月中旬 半チャンラーメン 580円 
2006年5月上旬 湯(タンメン)麺 480円 
2006年10月下旬 ラーメン 380円 + 半チャン野菜炒め 580円




〜伊峡 その1〜



お店に到着しました。靖国通りを一本入った場所です。
神保町駅から徒歩約1〜2分。
御茶ノ水駅、新御茶ノ水駅、小川町駅からは約7〜8分ほど。






お店は角地に面し、入口も左右にあります。
お隣はこの界隈に数店舗展開する、かの有名な「いもや」さん。
いいなぁ・・・この近所にお勤めの方は
ランチのお店選びにホント恵まれていますねぇ・・・。






「伊峡」の文字が入ったオリジナルのノレン。
左側二枚が短いのは修繕したのかな。
歴史を感じますな・・・(´ー`)ノ






店頭の看板。
お値段のところが貼り替えられてます。
価格改定があったのかな・・・?






店内はカウンター形式で、客同士が背中合わせになる形。
冷水はセルフ、食後の手会計です。






店内の御献立。
価格設定はとても良心的です。
トーゼン、名物の「半チャンラーメン」を所望させて頂きますた。






清掃の行き届いた清潔な店内で
調理と配膳に専念するお二人のスタッフ。










2006年4月中旬 半チャンラーメン 580円
(この写真はクリックで拡大します)



ウ、ウゥ・・・・。
ウマ、ウママ(゚Д゚)マママーー!!
こ、こ、これは・・・かなーりのカルチャーショック。

「ラーメン」、「チャーハン」・・・それぞれ単品でも十分に美味しいですが・・・
あたたかな美味が二つも揃って、まさに幸福感もWで「倍増」です。
さらに、さらに、この良心価格による「無類」の満足度・・・。

「大衆の求める美味とは・・・?」
「庶民にとって真のごちそうとは・・・?」


この永遠のテーマに鋭く迫る
一つの「ファイナル・アンサー」がここにある。









一言で言うならば・・・・何とも、「あたたかな味」。
しかも家庭料理的なあたたかさではなく、
職人(プロ)の手による・・・・「あたたかさ」と「ぬくもり」を感じます。

言うなれば、プロが「真心を込めて」作った味・・・・ですね。
そうでなければ、こう言う味にはならないでしょう。









炒飯も・・・やはり、「あたたかな味」。

米、玉子、豚、塩・・・・と言う「素朴な味」「普通の素材」同士をかけ合わせることで、
どこまでもシンプル&あっさり、クセや嫌味が全くなく、炒めた芳ばしさが見事に華を添える、
素朴な「米」の美味しさを究極的に生かし切った「絶品チャーハン」。

特に後味として、舌を「ふんわり・・・」と
優しく包み込むナチュラルな甘味が素晴らしい。









伝統の味を踏襲しつつ、しっかりと「旨味」を湛えたスープ。
鶏ガラの臭みや雑味が残ったような粗野な味ではなく、かと言って「洗練され過ぎた味」でもない・・・・。
動物ガラのコクとクセが絶妙に生かされた、まさしく「これぞラーメン」と言えるスープ。






麺は柔らかめの細麺・・・・絶妙に「たおやか」、心憎いほどに「しとやか」・・・・。
今時、これほど魅力的な「柔和な麺」を出すお店は、とても貴重で、むしろ新鮮ですらある。
言うなれば、「食べ物」としての「ぬくもり」を感じる食味・・・。






いやはや・・・・美味しい麺です。なにしろ食べていて、実に「気分が良くなって来る」。
口によく馴染み、しっくりと来て、舌に優しく寄り添って来るような・・・
「口に優しい」、「つつましやか」な食感。




2006年4月中旬 半チャンラーメン 580円 

1966年の創業、神保町界隈のラーメンシーンを支えて来た有名な老舗店。今年でちょうど40周年と言う事になる。
ちなみに、こちらのすぐ近所にある、ラーメンと半チャーハンをセットにした「半チャンラーメン」発祥のお店として知られる「さぶちゃん」は、こちらの「伊峡」で修行して独立した方のお店らしい。
古本屋街として知られる神保町の界隈は、大通りを一歩入ると、学生やサラリーマン相手の小さな飲食店がひしめき合っている。そんな一画にお店は面していて、左右二箇所ある入り口には、長い長い歴史と歳月を感じさせるノレンがかかっていた。

お店は、客同士が背中を合わせるようにカウンターが二列に配置されている。入ってすぐに気付いたのだが、お店の中は非常に清掃が行き届いていて、卓上の調味料の類も整然と並んでいる。
もっと下町っぽい「くだけた」「雑然」とした雰囲気を想像していたので、意外に感じた。当初から予定していた「半チャンラーメン」を所望する。

注文して3分ほどでラーメンとチャーハンが同時に登場。
ラーメンのスープを飲んでしまうと、チャーハンの本来の味が判りずらくなりそうなので、まず最初はチャーハンから食べ始める。
この「炒飯」・・・・見た目からして、本格「中華」の作りでもないし、かと言って和風の「焼き飯」風でもない。言わば、町の中華屋さんの「炒飯」の見た目である。

一口食べてみると、ご飯はパラパラと軽くほぐれる感じで、決してベタッとしていない。
そしてまず、ほんのりと軽く「ピンッ」と塩が立って感じられ、舌へ軽いアクセントになっているが、旨味自体は非常に「アッサリ」としていて・・・刻んで入れられたチャーシューの肉の旨味とそのタレ、そして後味に玉子とご飯のほんのりとした甘味が広がり・・・なんとも「軽くて温かなテイスト」「ほのぼのとする美味しさ」である。もっとワイルドな濃い味付けと油の多い炒飯を想像していたのだが、口当たりは、油っぽさもなく、かと言ってパサパサもせず、本当にいくらでも食べられそうな美味しさ。

そして、何より特筆すべきは・・・・「ご飯」が抜群に美味しい事だ。
「米」の本来の旨味とサッパリ感が殺されておらず、それでいて適度な油感も加味されて、白飯とは全く異なるきちんとした「料理」の味になっており、物足りなさは全くない。
チャーシューも、ラーメンに入っていた物は極めて濃い味付けだったが、チャーハンのものはこま切れと言うこともあるが、極めて薄味で、全体として「素朴」「薄着」「繊細」な味わいである。ネギもほとんど入らず、アッサリとして、非常に風通しの良い味。
玉子やチャーシューの量も、あまり入れすぎると米の味を邪魔し、歯応えもクドくなるので、敢えて控えめにしてあるのだと思う。ゴテゴテした味のチャーハンとは、まさに対極に位置する、シンプルゆえに「米」の美味しさが際立つ、まったく嫌味のない「美味しさ」だ。

まさしく、「炒飯」とは・・・・決して「具」の豪華さを競うための料理なのではなく、本来のあるべき姿は、「ご飯」を「炒める」ことでより一層「ご飯」を美味しく食べさせるための料理法なのだ・・・・と気付かされる。
ご飯はよく噛むと、口中で唾液と混じりご飯の澱粉質が糖に変わって甘くなる。
その甘味と玉子の甘味が共鳴し合って、素晴らしい味を生み、さらにシンプルな塩味とチャーシューの肉のわずかなコクが、その「共鳴」を何倍にも増幅させる「美味の方程式」が確立されている。
さらに、「上品」過ぎないところがいい。これぞまさしく「庶民のご馳走」の味。「下町のチャーハン」「大衆向けチャーハン」の王道だろう。
私が過去食べて来たチャーハンの中でも、間違いなく五指に入る美味しさ。
途中で試しに、卓上にあった白コショウを少しだけかけてみたが、せっかくの究極的完成形の味がかき消され、コショウに占領された野卑な味になってしまうので、絶対に何もかけないで食べた方がこのチャーハンの真価が判ると思う。

チャーハンを三分の一ほど食べたところで、いよいよラーメンに手をつけた。
レンゲの代わりにチャーハンのスプーンでスープを飲んでみると・・・・・次の瞬間、めくるめく「遠い昔の記憶」が一瞬にして脳裏に甦って来る。
このスープ・・・・確かに、トラディショナルな「中華そば」の味である。
10年以上も昔なら、都内でもよく出会った味であり、今でも地方の「スキー場」や地場の「駅前食堂」などへ行けばこう言う味のスープに出会うこともある。
ただ、何より大きく違うことは、味の路線はそのままに、それらより遥かにしっかりと出汁を取っていて、その味のレベルは遥かにグレードアップされている事だ。

老舗のラーメンと言うことで、もっと「ぼやけた味」「大人しい味」「雑味の多い味」・・・を想像していたのだが、さにあらず。
現代のラーメンの水準に照らしても「きっちりと旨い」味である。きっちりと過不足なく、しっかりと「純な」旨味を湛えた味・・・・。
そのため、「懐かしい」と言う感覚は持つものの、「物足りない」とか「古臭い」と言う感覚は一切起きない。旨味はきっちりと濃いが、それなりのしっかりとしたナチュラル感も残っている。
ちなみに、スープ素材は鶏ガラや豚骨、カツオ節、煮干などだそうだ。表層の油が少ないので、ホワホワと香りがよく立ち昇り、わずかに散らされたネギの芳香がこれまた非常に良く合っている。また、油は鶏油と思われ、ラードではないので、スープの口当たりが非常に柔らかだ。

特に感心するのは、動物ガラの臭みや雑味が残ったような粗野な味ではないのだが、かと言って「洗練され過ぎてもいない」・・・・何とも絶妙な「ポイント」を探り当てていることに舌を巻く。
動物ガラの独特なクセをすべて取り除いてしまうのではなく、ある程度残す事で動物ガラのクセが絶妙に生かされていて、まさしく「これぞラーメン」と言える美味しさ。つまり、「そば」や「うどん」とは全く異なる、本来の「中華そば」の味になっているのだ。

鶏と醤油の味が、極めてストレートでシンプル。ここまでこの路線を極めると、やたらな新素材系のスープは、到底、太刀打ちできないと思う。
似ているスープとして、「若月」(新宿区)や「平野屋」(群馬県)などのスープとイメージが強く重なる。また、鶏ガラ、醤油、ネギなどが、濃厚な「ガラ」のコクやパンチのある「13湯麺」(千葉県)のスープを彷彿とさせる。

そして、「麺」もまた、意表を突かれる衝撃的な美味しさだった。
柔らかめの細麺なのだが、一口食べれば、その食味は決して「凡庸」ではない事を悟る。何と言えば良いのか・・・・絶妙に「たおやか」と言うか、心憎いほどに「しとやか」と言うか・・・・。
むやみに「硬めの麺」が流行している昨今、これほど魅力的な「柔和な麺」を出すお店は、とても貴重で、むしろ新鮮ですらあると思えてしまう。

柔らかいとは言え、決してフニャフニャと言う無秩序でネガティブな、ふやけたような柔らかさではなく、一本一本がきちんと輪郭を残しつつも、謙虚で健気(けなげ)な歯触りを放ち、なんとも食べ手をリラックスさせてくれる「あたたかな食味」を醸し出しているのだ。
とにかく、口によく馴染み、歯にとてもしっくりと来て、そして舌に優しく寄り添って来るような・・・・「口に優しい」、「つつましやか」な食感。
いかにしてお客様に気分良く食べて頂くか・・・・を突き詰めた麺。決して客に口答えせず、客を追い越さず・・・・なにしろ、食べていて「気分が良くなって来る」ことに驚く。
このような滅私奉公的な食感の麺は「のざわ屋」(新宿区)以来だ。

チャーシューはモモ肉だろうか、かなり醤油味が濃い。ややキツメの味付けで、鋭利なしょっぱさと言うか・・・・キレのある「酸味」のような味を感じる。
肉自身の味は、濃い味付けにほとんど隠されていて、醤油の鋭角的な強い味が全体を支配している。これは、やはり老舗として知られる「光江」(台東区)のチャーシューと同じ路線の味付けだ。昔は使う肉自体がさほど上質なものではなかったと思われ、皆こういう強い味付けで食べさせる感じだったのだろう。
割と厚みはあり、全体の歯応えはモソモソしているが、部分的にスジがある感じでプニプニと弾力のある歯切れの良くない箇所もあった。。
メンマも「昔ながら」のオーソドックスなタイプだが、微細な繊維感が心地よく、素朴ながらも旨味もきっちりと付いており、薬臭いと言うことも全くない。派手さはないが、ビールのおつまみ等にも合いそうな美味しいもの。

ラーメンとチャーハンを交互に食べていると、いつの間にか、気持ちはすっかり「至福」の極みへ・・・。
もちろん、体重の同じ者同士が乗ったシーソーのように、ラーメンとチャーハン、両者の存在感が見事に「均衡」している。
チャーハンをすくって、ラーメンのスープへ浸して食べても美味しい。チャーハンのほんのりと甘く、アッサリとした軽い口当たりが、このスープと抜群に合う。
もともと町の中華屋さんでチャーハンのおまけで付いて来るスープにも近い味なので、相性は抜群だ。

ともかく、一口食べ始めてから、ガツガツと夢中になって食べ進んでしまった。
麺とチャーハンを食べ終えると、もともと麺に対して多めと言うこともあるし、レンゲがないのも関係していると思うが、スープは5割ほど残った。
そのまま丼を両手で持ってスープを飲む。一口でやめるつもりが、結局はすべて飲み干してしまった・・・・。
後口には、微細な化学調味料の感触も残る。しかし、それ以上に出汁もしっかりと濃厚で、「ガラ風味」がとても豊かなのだ。業務用スープや粉末調味料の類では、こう言う生き生きと躍動するビビッドなスープの味は絶対に出ないと思う。
火入れされた醤油の旨味とミリンの甘味も、強すぎず弱すぎず、ダシと絶妙にからみ合い、グイグイと飲まされる。ともかくこのスープの持つ「引力」は凄いものがある。

それにしてもこちらのお店・・・・インターネット上での評判は、「昔のままの味」「値段のチープな店」「神田の学生向けの店」などなどの、あまり「味」とは関連のない形容詞で評されている事が多いようだが・・・・しかし、何より「この美味」こそが、この飲食店の密集する激戦区で、40年間も長らく人気を維持している最大の理由に他ならないだろう。もしそうでなければ、今や100円台のファーストフードやコンビニのオニギリが巷にあふれる中、到底、「安さ」だけでは生き残れないはずだ。
実は、こちらのお店は10年以上も前から、私の「宿題店リスト」に入っていたお店だったのだが・・・・今日まで後回しになってしまっていたのは、そう言う「巷」の声が影響していたのは否めない。
まあ、あくまで感動の大きさは、事前の期待値と反比例する仕組みだし、そういった「声」を聞いていたお陰で、今回の感激もひとしおとなったのかも知れないが・・・・。

それとも、今回の私の訪問は、たまたま「大当たり」の出来の日に当たったのだろうか・・・・。
同じく老舗の「メルシー」(新宿区)なども一回目は動物ガラの濃い美味しいスープに当たったが、二回目は醤油が立ったコクの少ないスープに当たったこともある。

ちなみに、こちらのラーメンの「美味しさ」の根底を流れる特徴は・・・一言で言うならば・・・・何とも、「あたたかな味」だと言う事だ。
しかも、家庭料理的なあたたかさではなく、職人(プロ)の手による「あたたかさ」、食べ物としての「ぬくもり」・・・を強く感じさせられるのだ。
ラーメン同様に、炒飯も・・・やはり、「あたたかな味」「ぬくもりのある味」である。
店構えや接客などは実に気取りのないざっくばらんな雰囲気ではあるものの、供される料理は、まさしくプロが「真心を込めて」作った味・・・・だと思う。修練を積んだ「プロの調理技術」と「真心」の両方が揃わなければ、こう言う「客を感動させる味」には仕上がらないだろう。

決して物理的、成分的な「味」だけでは到達できない、より高いレベルの感動を呼び起こすには、作り手の「心」と、食べ手の「心」が・・・・「共感」、「共鳴」、「シンクロ」する事こそが絶対条件である。
作り手の「真意」を理解し、そのあたたかな「気持ち」に触れる事、作り手の「心」が伝わってくる事・・・その「以心伝心」こそが、客にとって、より「大きな感動」の原動力であると思う。
つまり、もともと作り手の心が「温かく」なければ、料理からも「温かな味」は決して伝わって来ないことになる。

食べ手の心をホワホワと温め、ゆっくりと癒し、解きほぐす・・・優しいテイスト。
そんな温かな感動を覚える「ラーメン」と「チャーハン」が・・・・目の前に二つも揃えば、まさに幸福感もWで「倍増」である。それぞれ単独でも十分に美味しいのに、一気に「ダブル体験」できることで、「ささやかな幸せ度」「プチぜいたく度」も急激にアップして来る。そしてさらに、この良心価格・・・・当然であるが、客として「無類」の満足度が現出する。

「大衆の求める美味とは何か・・・?」

「庶民にとって真のごちそうとは・・・?」

もし・・・そう尋ねる人がいるならば、ぜひこちらのお店を訪ねて、
先入観や価格に惑わされず、心静かに「無心」で、こちらの「半チャンラーメン」を食べてみてほしい・・・・と答えたい。

さすれば、この永遠のテーマに対する完璧なる回答の一つが「見えて来る」と思う・・・・。


(麺は完食。スープも完飲。)




↓続きあり






〜伊峡 その2〜



おぉ・・・・わずかな期間にノレンが新品に。
こげ茶色のノレンとは珍しい。

実にさりげない店構えでありながら、
昼食の「魔境」とも言える神保町で40年の歴史を誇る「名店」です。










2006年5月上旬 湯(タンメン)麺 480円 



うーん・・・・これまたタンメンも「絶品」です。
単なる普通の食材と、極めてシンプルな味付けだけで、
ここまで「美味しく」仕上げてしまう「プロの業」に驚嘆させられますな。
過去、「何十万回」も作ったからこそ、この味が作れるのでしょう。

立ち昇る素晴らしくふくよかな香りが鼻腔を占領し、
くっきりとした味の輪郭を持ちながら、何ともあっさりとした優しい味わい。
優しい「細麺」との組合せが、斬新な感じです。









このスープ・・・・実に、「ナチュラル&パワフル」。
絶妙な塩気の醸すあっさりしたスープに淡色野菜の穏やかな旨味が厚く溶け込み、
ジワジワとコクが増幅して感じられ、非常に「滋味豊かな」味わい。
素直に美味しい「肉と野菜のスープ」と言う感じ・・・。






このたおやかな「細麺」を使うタンメンは新食感。
歯触りのある野菜群の中に入り、かつ、醤油風味がしないので、
何とも「クリスタルガラス細工」のように透明&繊細でデリケートな食味に感じる。
うーむ・・・・この極めて難しいバランスを成立させる調理の手腕に敬服。






毎日でも食べられそうな、あっさりとしていて透明感のある淡白な後味。
食後は、特に「細麺」ならではの繊細な腹心地が快感です。




2006年5月上旬 湯(タンメン)麺 480円 

前回の感激が忘れられず、再訪。何と僅かな期間のうちに「ノレン」が新品になっていて驚いた。
調べてみると「タンメン」も人気が高いようだと知り、今回はタンメンをオーダー。ぜひ例の絶品炒飯も食べたいところだが、今回は時間もなく、さらに連食予定であったため、「断腸の想い」で炒飯は断念。塩味のタンメンに、炒飯が合うかどうか・・・・と言う事も多少関係していたかも知れない。

登場したタンメンは実にオーソドックスなビジュアルではあるものの、立ち昇る素晴らしくふくよかな香りが鼻腔を占領する。
最初にスープを少し飲んでみると、キリッとした適度な塩味を放ちながらも、コクの柔らかな・・・・何とも穏やかなスープである。その味わいは・・・・透明感があると言うか、薄味と言うか・・・・あまり強くは味が感じられない。
そして一口麺を食べてみると、麺そのものは前回同様に、ツルツル、プルプルと繊細で艶かしい(なまめかしい)食感で、優しくたおやかなコシがなんとも食べ手をリラックスさせてくれる「あたたかな食味」であるのだが・・・・これまたあまりスープの味がからんでいない「薄味」な印象を受ける。

そこで次に、具の野菜とスープを良ーくかき混ぜてから、再び麺を食べてみると、今度はグイグイとてきめんに美味さが湧き立って来た。
この時点で、「ああ、やっぱりな・・・」と思った。
そうなのだ、一杯全部を食べて真に美味しいと思うタンメンは、むしろ一口目は「薄味」と感じられなければならない。そして食べ始めるうちに、大量に投入された野菜や肉が撹拌され、それらの旨味が次第にスープへ溶け出して、いよいよ初めて「味が完成する」のだ。要は「丼内調理」の工程が必要なのだ。

そうして、「完成形」に至った後のこちらのタンメンは、絶妙な塩味のアクセントが良く効いていて、あっさりとしたベーススープに淡色野菜の穏やかな旨味が厚く溶け込み、ジワジワとコクが増幅して感じられ、非常に「滋味豊かな」味わいへと昇華する。まさに、美味しい「肉と野菜の旨味スープ」・・・・と言う感じである。
また、添加物による味のカドやコショウ等によるスパイシー感が感じられないので、シンプルな塩味によるくっきりとした味の輪郭を持ちながらも、何ともあっさりとした「ヌケ」の良い優しい味わいである。

そしてタンメンと言うと、普通、乱切りされた野菜の食感に埋もれないようにプリプリしたコシのある太麺が使われる事が多い。
しかし、こちらのお店はラーメンに使うのと同じたおやかな「細麺」が使われていて、この組合わせがとても「新鮮」な新食感を生んでいる。
歯触りのある野菜群の中に置かれ、かつ、醤油風味がしないので・・・・その細麺ゆえの繊細な食感が、何とも「クリスタルガラス細工」のように透明&繊細でデリケートな食味に感じられ、扱いが極めて難しく感じられるのだ。
このデリケートな細麺に合うように、肉や野菜類も細かめに切られるとともに、麺の食感と一致する柔らかさまで火の通し方が見事に調整されているようで、この極めて難しいバランスを成立させている調理の手腕にはあらためて敬服させられてしまう。鉄鍋で野菜を熱しながら作られるせいか、スープは最後まで熱々なのもいい。

しかも何より食べていて驚くのは、使われている野菜や肉は極めて普通のレベルの食材に思え、味付けも「ひねり」のない極々シンプルなものであるにもかかわらず、何ともどこにも「隙がない」ほどに美味しいことだ。
あまり大きくはない豚肉の小間切れは加熱により身が硬く締まって、モサモサとした歯応えで決してジューシーではなく、旨味はスープへ流れ出した感じである。キクラゲの食感もやや硬めだし、キャベツやモヤシなども、使われている食材は何か特別なものと言う印象は受けない。
しかし、野菜は見事に「均質」に熱が通っている感じで食感に一切の乱れがないのに舌を巻く。例えれば、キャベツ等は、「芯」も「葉」も・・・・同じように柔らかい。同じ加熱時間なら芯の方が熱が通りづらいはずで、芯の部分は硬く感じるはずだが・・・・。なかなか火の通りづらいニンジンにも見事に火が通っている。一体、どういう調理法なのだろうか。
そして後味は、極めてスッキリ・・・・とまでは行かないが、やはりあっさりとしていて透明感のある淡白な後味。特に「細麺」ならではの繊細な腹心地が快感だ。

ともかく、すべての調理の工程に・・・・未熟さ、乱暴さ、粗雑さ、と言うものが全く見当たらないのだ。
それでいて決して大人しすぎず、上手な試合運びをするベテランボクサーのように、小刻みなジャブでこちらの舌を絶妙に追い込んでいくような隙のないパンチがある。
これまた、前回のチャーハン同様、ゴテゴテした味のタンメンとは、まさに対極に位置する、シンプルさゆえに「野菜」の美味しさが際立つ、まったく嫌味のない「美味しさ」だ。
私が過去食べて来たタンメンの中でも、間違いなく五指に入るタンメンである。一口一口、その完成度の高さに感心しながら食べ進んで行くと、いつの間にか気が付けば今回もスープまですっかりと完飲させられていた。

こちらのお店の料理を食べていて、以前、テレビでやっていた伝統の「和傘」(唐傘)職人の特集番組を思い出してしまった。
天然の「竹」を伐採してきて、小さな刀一つで寸分の狂いなく丹念に一本ずつ正確に「竹」を裂いて行き、非常に複雑な和傘の骨組みに見事に仕上げてゆく。そして「和紙」を糸を使ってきれいに貼り揃え、これまた内側へ寸分の狂いなく折り畳んでゆく・・・。竹と和紙と言うシンプルで素朴な素材が、プロの職人の手に掛かると、精緻な竹の骨組みを持つ見事な高級和傘へと変身してしまうのに「驚嘆」と「畏敬」の念を禁じえなかった。
その「業」の凄さたるや・・・・例え同じ材料と同じ道具を与えられたとしても、素人には到底作り得ない、まさしく選ばれしプロ職人の手による芸術の領域である。一年や、二年では到底身に付かない「プロ職人としての技術」、若い頃から「脇見をせず」、この道「一筋」に修行して来た人のみが到達しうる神々しい「領域」である。

こちらのラーメンも、タンメンも、チャーハンも・・・・それらと同じレベルの「真のプロの領域の業」を感じさせられてしまう。
どこでも手に入りそうなごく普通の食材とシンプルな味付けとしか思えないのに、一体何が違うのかと言えば、やはり調理の「玄人技術」と、プロとしての「デタミネーション」なのだ。
過去、来る日も来る日も、毎日毎日、数十万回も「この味」を作り続けて来たからこその・・・・どこにも一分の隙もない味・・・・「この道」を長らく歩んで来た人のみが作れる味に他ならないだろう。

巨大なオフィス街である千代田区は地元住民が極端に少ない。つまり、昼と夜で人口が激変するゆえ、飲食店は昼の集客に全力で鎬を削る「ランチ」の激戦区なのだ。
特にこちらのお店のある神保町界隈は、大小、和洋中、様々な種類の飲食店が所狭しとひしめき合い、まさに、昼食界の「バーリトゥード」、総合格闘技の真剣勝負の世界である。到底、「アマチュア」が生き残れるような甘い場所ではない。
その神保町のど真ん中で、しかも両隣を天ぷらとトンカツの超有名店「いもや」に挟まれて長年営業しているのだから・・・・こちらのお店の「実力の高さ」には疑念の余地は一切ないと思う。
ちなみに、こちらのお店を訪問するのであれば、昼の12時台は店内は大混雑なので、お昼の時間帯を避けて、ゆっくりと調理してもらえる時間帯を選べば、さらにより一層美味しいラーメンが頂ける気がする。


(麺は完食。スープも完飲。)




↓続きあり






〜伊峡 その3〜










2006年10月下旬 ラーメン 380円
(この写真はクリックで拡大します)



うーん・・・先の二回の「絶品レベル」のラーメンに比較すると、
今回の3回目のラーメンは、やや大きな「ブレ」に当たってしまった感じ・・・かな。

何と言うか、スープを長時間火にかけすぎた感じで、
せっかくのガラ素材類の風味がやや飛んでしまったような印象・・・。
ただ、その分、チャーシューが結構美味しかったです。

「365日、100%常に同じ味を出す」事の難しさを実感します。









今回のスープは油が多めに浮き、結構な量の「アク」や「滓」(おり)が目立ちます。
あまり香りが立たず、コクや旨味は少なく、鼻や舌に感じるのは「油感」「ラード感」がメイン。






細麺はやや硬めの茹で加減だったが、毎日でも食べられそうな食感は相変わらず。
ただ、スープの旨味が麺をコーティングしない関係からか、
小麦粉の微細なザラザラ感が感じられました。










半チャン野菜炒め 580円
(この写真はクリックで拡大します)



これが伊峡の「半チャン野菜炒め」セットです。
きちんと中華スープまでセットで付くのは嬉しいですね。

ただ・・・・今回の炒飯は、
作り置きされ時間が経っていたのか、パラパラとする軽快感がなく、
米が舌の上でモソモソするような感じが・・・・。









「野菜炒め」は、「醤油味」+「汁っ気」の多いジューシーな仕上がり。
汁気の多さのため、野菜がシャキッとせず、「クタクタ・・・」としているのが印象的。
味的には微妙に甘く、はっきりとしたゴマ油の香りがする。






途中から、「野菜炒め」をラーメンの上にトッピングし、
「広東麺」風にアレンジしてみますた。
野菜の甘味とゴマ油風味が良くマッチして、なかなか美味しい。




2006年10月下旬 ラーメン 380円 + 半チャン野菜炒め 580円

こちらのお店の美味しさが忘れられず再訪問。
さしてメニューが多い訳ではないのだが、何を頼むか・・・・醤油ラーメンか、タンメンか、それとも炒飯か・・・・どれも「拮抗」して素晴らしく美味しいと言うイメージがあり、迷いに迷ったあげく、せっかくなのでちょっと豪華に「ラーメン+半チャン野菜炒め」を食すこととした。

数分の後、登場した「ラーメン」のスープを一目見て、ちょっと今までのスープとは違うな・・・・と思った。
スープにはあまり香りが立たず、レンゲですくってみると、油が多めに浮き、さらに結構な量の「アク」や「滓」(おり)が浮いている。

一口飲んでみると・・・・コクや旨味は極めて控えめに感じられ、鼻や舌に感じるのは「油感」「ラード感」がメイン・・・・である。
何と言うか、長時間、火にかけすぎた感じで、素材類の風味が飛んでしまって、スープの様々な味わいのうち、ほぼ「油の味」だけが残った・・・・と言うような印象だ。特に「コク」が感じられず、ガラの風味は、ほぼ完全に飛んでしまっているようだ。
また、スープに「味の勢い」や「素材のフレッシュさ」が感じられず、何度も火にかけたり、降ろしたり・・・・を繰り返したかのような、スープの「疲れ」が感じられてしまう。

ただ、素材のコクのなさを、醤油や塩気を増量したり、化調を効かせて、ごまかそうとはしていないのは潔い。
また、こう言うコンディションの味に当たると言う事は、アルミパック入り濃縮エキスをたっぷり使ったラーメンとは大きく異なり、スープに粉末調味料や濃縮エキスの類をほぼ使っていない何よりの「本物」の証拠でもある。だからこそ、以前の「当たった」時の美味しさは比類のないナチュラル風味で、スープ完飲に至らせられたのだと思う。

その分、と言うか・・・・今日はチャーシューが結構美味しかった。きちんと肉の繊維がほぐれ、噛んだ時の肉の量感が楽しめるし、味付けもほど良く、しっかりと肉の味がした。

毎日でも食べられそうな細麺は相変わらず。ただ、今回はやや硬めの茹で加減だったのと、スープに元気がないと、どうしても麺もイマイチに感じられてしまう。また、スープの旨味が麺をコーティングしない関係からか、小麦粉の微細なザラザラ感が感じられた。

一方の「炒飯」だが、一口食べてみると、今回の炒飯は・・・・やや塩がトガリ気味で、味が「やせている」感じ・・・・を受けた。
どうやら最初に、ある程度大量に作っておいて、注文が入ると、一杯分ずつをフライパンで温め直して出しているようなのだが・・・・運悪く、作ってから結構時間が経過してしまった炒飯だったようで、パラパラと飯粒がほぐれる感じがなく、米が「ベッチャリ」としていて、舌の上でモソモソするようなモタ付き感を感じた。
また、今回はたまたまなのか、米その物も水分が多く、炊き加減がやや柔らかめだったようだ。

「野菜炒め」は、前回の湯麺のイメージが色濃く残っていたため、先入観として「塩味」の野菜炒めを想像していたのだが、登場したものは「醤油味」に仕上げられていた。
食べてみると、野菜は「シャキ、シャクッ」とする背筋の伸びた感じや、風通しのよさは感じられず、食感が「グッタリ・・・」「ベッタリ・・・」としていて、とにかく「汁っ気」の多い仕上がりだ。そのため、ジューシーなのだが、野菜類の歯触りがクタクタとして感じられ、あまり元気がない食感である。
出されるまでのわずかな時間、フライパンで1〜2分炒めただけで、ここまで玉ネギやキャベツが柔らかくなる訳はないので、おそらくは野菜炒めも作り置いていた物と思われる。食感から考えると、こちらも作ってから、それなりの時間が経過していたようだ。
味的には微妙に甘く、はっきりとしたゴマ油の香りがする。甘味がある事を考えると、醤油とミリンで味付けをしているようだ。汁気の多さも合わせて考えると・・・・ひょっとしたら炒める際に醤油ラーメンの「素ダレ」や「スープ」を使っているのかも知れない。

そこで、「ハッ」と閃き、醤油味の野菜炒めをラーメンの上にトッピングして、「広東麺」風にして食べてみることにした。
餡としてはトロミが付いていないのがネックだが、これはなかなかのアイディアだった。野菜炒めの野菜の甘味とゴマ油風味が良くマッチして、なかなか美味しい。しかし、やはりスープ自体のコクや旨味は増強はされず、以前の二回の訪問で体験したような、「無我夢中」になる感覚は生じて来なかった。

実は、今回の訪問は、夕方の遅い時間で、店内には客の姿もまばらで、私の注文を作り終えると、厨房内の店主さんはタバコで一服されていた。
この時点で、ラーメンも炒飯も「絶品の美味しさ」と思った過去の二回の訪問は・・・・いずれも「開店直後」の、昼の早い時間帯だった事実を思い出した・・・・。
最初の二回の絶品美味と、今回の味の「大きな差」が、「時間帯」のせいだけなのかどうかは不明だし、果たして普段はどちらの可能性に当たる事が多いのか・・・・も不明だが、最初の訪問時に「大当たり」が来てくれたお陰で、こちらのお店の真の高い実力を、見逃さずに済んだのは幸運であった。

私も自宅で「自作ラーメン」を作る事があるが、豚骨や鶏ガラを使ったスープは、出来立ての直後は、これらの動物性の風味がやたらと生々しく、強過ぎてしまう。
ところが、2〜3時間ほど落ち着かせてから再加熱したスープは、その生々しさが良い感じに姿を潜め、隆々たるパンチのある「旨味」だけが際立って感じられるようになる。この時の状態が、余計な雑味がなく、味が力強い勢いに満ち、最も美味しい。
しかし、自分で作るので化学調味料も、たん白加水分解物も、濃縮エキスも、一切使わないためか、味が極めて「変化しやすい」のが難点だ。

実際、その「ピークの美味しさ」が維持できるのは、わずかに1〜2時間程度であり、それ以上時間が経過し、仕上がってから7〜8時間とか一晩とか経ってしまったスープや、何度も冷却&加熱を繰り返したスープは、次第に風味が飛んでしまう。特に再加熱の際に、「沸騰」させてしまうと、油っこさだけが残り、次第に単なる「無味無臭」のギトギトした油っぽい液体へと近付いて行く・・・・印象がある。
まあ、出来立てのスープを小分けにして「冷凍」保存して置けば、それなりに、品質劣化の少ない状態を保てるとは思うが・・・・。

世の中には多くのラーメン店があるが、毎日、スープを仕込むラーメン店もあれば、まとめて数日に一回とか、週に一回だけスープを仕込んで、冷凍して置き、小分けにして使ったりするお店もある。
そう考えると、スープのコンディションについて、どうしても「くじ引き」のような「当たり」「はずれ」に見舞われるのは、ある程度、仕方のない事なのだろう。
これらの事を考え合わせると、こちらのお店を訪問するのであれば、少なくとも、開店直後の昼の12時前に訪問すれば・・・・上質コンディションの「ラーメンスープ」、作り立ての「炒飯」、作り立ての「野菜炒め」に・・・・当たる可能性が高い気がする。


(麺は完食。スープは3割飲んだ。)










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