01ch グルメ食べ歩き
久兵衛 銀座本店
(東京都 中央区)
店名 銀座 久兵衛 本店(きゅうべえ) 住所等 東京都中央区銀座8-7-6 【地図表示】 禁煙 タバコ分煙(フロアや時間帯による) 訪問日 2006年6月中旬 にぎり おまかせ(ランチ) 8400円
〜銀座久兵衛〜
2006年6月中旬 にぎりおまかせ(ランチ) 8400円
今回は、都内でも屈指の名店との評判を誇る「お寿司屋さん」の一つ、巷で評判の「久兵衛」(中央区・新橋駅 or 銀座駅)さんを訪問してみました。
実際、インターネット上の「寿司系サイト」「グルメ系サイト」などを見る限り、こちらのお店を「絶賛」する記述が多数見受けられます。
しかも、その表現は「日本一のブランド寿司屋」「最高級にして絶品」などの最上クラスの賛辞が惜しげもなく贈られているお店なのです。
著名な陶芸家であり、芸術家であり、稀代の食通としても名を馳せた「北大路魯山人」(きたおおじろさんじん)や、作家の「志賀直哉」がこよなく愛した寿司店としても良く知られています。
銀座八丁目ガス灯通り
新橋駅や銀座駅から徒歩3〜5分、銀座「ガス灯通り」にお店は面しています。
有楽町駅や汐留駅、築地駅、日比谷駅、内幸町駅なども徒歩圏内でしょう。
1〜8丁目まで、街並みがピアノの鍵盤のように整然と並ぶ銀座ですが、こちらの8丁目界隈は、無数の高級ナイトクラブの密集するエリアで、夜のネオン街としても良く知られています。
久兵衛本店ビル
創業は昭和11年、現在の銀座本店は平成5年に新築移転した建物になるそうです。
多数のお寿司屋さんが軒を連ねる銀座ですが、一棟のビルの全フロアを占めるお鮨屋さんは・・・・おそらくこちらの「久兵衛」だけでしょう。
地価日本一の銀座で、実に凄い事です。凝ったデザインの建物は数々の建築賞も受賞しているとのことです。
しかも、数十メートル離れた場所に「別館」まであり、さらに今では、銀座以外にも、京王プラザやニューオータニ、帝国ホテル大阪などなど・・・超高級ホテルへも支店を展開しているようです。
本店の入口
ちなみにこの日は二名で予約して、昼の「ランチ」で伺いました。
ドア奥に予約客の一覧表があり、予約をすると、フロア別に名前を書いて貼り出しておいてくれます。
店頭のメニュー
店頭に置かれたメニュー表です。
冒頭の説明によれば、現在、創業記念感謝として「御昼食」はすべて2000円引きの値段になっているようです。
つまり夜と同じコースが昼は2000円安く食べられる形です。「生ちらし」、「にぎり」に加え、「鮨懐石」コースもあります。
一階の客席
入口を入ると、右側にエレベーターがあり、奥には一階の椅子席カウンターが広がります。
付け場には、ガラスのネタケースはなく、握る様子が手に取るように良く見える「全席アリーナ」の造りです。
入口に張り出された席割り表に従って仲居さんが指定のフロアまで付き添って案内してくれます。
この日、私達の席は5Fでした。
フロアガイド
エレベーター内に掲示されていたビルのフロア案内です。
禁煙席の有無を伺ったところ、「昼の5Fはほぼ禁煙です」と言う・・・・やや曖昧なお返事でしたが、昼は貸切などを除けば原則禁煙と言う意味なのでしょうか。
少なくともこの日に座った席では、灰皿もなく、吸っている人もいませんでした。
五階の客席
5Fでエレベーターを降りると、右手のスペースへ案内されました。
左手に見える蛍光灯の照明が厨房です。
女性は、和服姿の「仲居」さんと、ワンピース姿の「客室案内係」さんに分かれるようです。
カウンター風景
コの字型の白木のカウンターが広がります。
さすが、銀座の寿司屋と言う感じで・・・・高級感のある重厚な造作です。
そして、さすが「久兵衛」、「客層」もまた素晴らしいです。
皆さんマナーが良く、ゆったりとして、会話にも品があります。
御品書
着席すると、メニューを手渡されます。
「にぎり」の「おまかせ」を注文しました。
お盆セット
無垢材のお盆の上に箸置きがセットされます。
お寿司は、陶器の平皿に一貫ずつ置かれるシステムです。
以下、登場したメニューを順番どおりに紹介していますが、あくまで「おまかせ」コースですので、旬や仕入れの内容によってメニューは変わるものと思われます。
「おまかせ」コースは、最初の先付けとして、「ミニ茶碗蒸し」、「キスの昆布〆」、「もずく酢」の三種類から一品選べるようです。
私は「キスの昆布〆」、同行者は「もずく酢」をお願いしました。
お通し
まずは「お通し」の若芽とミョウガの酢の物です。
冷たい若芽は風味も良く、磯臭さのないとても「きれいな味」です。サッパリとしたミョウガの香りと共に、心身を一気にリフレッシュしてくれます。
このお通しは、無料でお替り可能です。
鱚のコブ〆
先付けとして出された「キスの昆布締め」です。
キスの産卵期は8月〜9月ですので、その前の5〜7月、特に6月のキスは旨味が乗っていると言われます。
つまり、キスは初夏の今頃が旬真っ盛りです。
食べてみますと・・・・身がモチモチとして、昆布の旨味も加わり、「じっくり」と美味しいですね。
昆布で〆るせいか、身がモッチリと粘性を帯びていることもあり、旨味の伝わり方が、ゆっくりして「スロー」です。
私的には、キスの持ち味を生かすには天ぷらなどの加熱した料理法が好みですが、
こういった「お造り」風にして食べてみるのも、良いものですね。
もずく酢
こちらは、同行者の頼んだ先付けで、「もずく酢」になります。
少し味見をさせて頂きましたが、ヒンヤリと冷えた「甘酢」の「冴え切った」美味しさにビックリしました。
とても「純」な酢の旨味が鮮やかで、ともかく酸味が「きれい」で、どこまでも「深く」&「淡く」&「ピュア」な味です。
このピュアな酸味が、舌を万遍なく洗い流してくれ、同時に食欲を増進させてくれますので、
これから食べるお寿司へのプロローグとして最適の一品でしょう。
先付けを食べていると、「何か苦手なタネはございますか?」と、職人さんが尋ねてくれます。
実は人工着色料の色がきつい「トビコ」(飛魚の卵)が苦手なのですが、価格帯から考えても出る事はないだろうと思い、「どんなタネも大丈夫です」と答えました。
ガリとお茶
「ガリ」は、よくある「甘酸っぱい」軟弱な口当たりのものではなく、甘味がなく、舌と鼻に「ツンッ」と来る鮮烈な酸味を持たせた硬派な味付けです。
これが何を意味するかと言うと、業者から既製品の「ガリ」を仕入れたものではなく、自家製のガリだと言うことです。
実際、久兵衛のガリは、味付けに砂糖を一切使っていないらしく、その分、酢の酸味が「ピシィッ」と効いていて、ショウガの鮮度が鮮やかに感じられます。
緑茶は、普通の「煎茶」です。高級寿司屋だから「玉露」などの高級茶が出ると思うのは間違いです。
むしろ玉露などの旨味の多い柔らかな口当たりの高級茶は、口直しにならず、寿司の味をぼやかしてしまいますので、多少渋味のある番茶のようなお茶が一番と言われています。
お茶は随時、後方から仲居さんがタイミング良く注いでくれます。
中トロ
さて、まず最初の一貫目は「中トロ」です。
最初の「つかみ」としてのインパクト狙いなのか、最近はなぜか一貫目に中トロを出してくるお店が多いですね。
予め調味液(煮切り醤油)が塗られていますので、醤油はほんのちょっとだけ付ける程度が良いと思います。
味わい、口解け感とも、ほぼ予想範囲内と言う感じの美味しさです。
握りがやや小振りなこともありますが、ともかく、「主張の柔らかな」「優しくて品の良い」お寿司と感じられました。
さて、一貫目を食べたところで、職人さんから「お寿司の大きさはいかがでしたか?大きさは調節しますので、おっしゃって下さい」とご案内を頂きました。
正直言いますと、「ちょっと小さいかな」と感じたのですが、初訪問でしたので、久兵衛の目指すスタイルを知る意味でも「基本サイズ」で握られたものを一通り食べてみたいと思い、敢えて「このままでお願いします」と答えました。
後日、少し調べてみたところ久兵衛は、「一口」で食べられるお寿司を標榜しているそうですので、サイズ的にはやや小振りに握るところに一つの特徴があるようです。
ただ、やや小さめと感じられたお寿司も、後半、終盤になるにつれ、しっかりと満腹感が出てきたので、結果としては最初に出されたサイズのままでお願いして良かったと安堵しました。
鯒(こち)
二貫目は、定石どおり「白身」の登場です。
なんと、高級魚として知られる「コチ」です。まさに今頃の6〜7月、初夏が旬ですね。
コチは活きた元気なものでないと美味しくないと言われ、仕入れが難しく、価格的にもフグや真鯛などと並ぶ最高級の白身だと言われています。
食べてみますと・・・・身肉はヒラメのようなアッサリ、サッパリとした「白身」特有の味わいですが、もう少しモッチリ粘りのあるしっかりとした歯応えで美味しいです。
一般人にはなかなか入手困難、寿司ダネとしてもかなり珍しい部類だと思います。
つけ場風景その1
職人さん達が寿司を握る様子は、ともかく「手早い」ですね。
目にも止まらぬ早業で、しかも極めて流麗、力みがなく、無駄な動きや淀みが全くないです。
ちなみにこちらのカウンター席スペースは12席ほどのようですが、職人さんは3名いらっしゃいます。つまり、職人さんお一人が客4人を受け持つシステムのようです。
これなら客が食べるテンポと寿司を握るテンポがほど良く一致し、まさに、理想と言えるのではないでしょうか。
つけ場風景その2
「雲丹」(うに)に「煮切り醤油」を塗っているところです。
職人さん達は皆さん、表情に気合が漲り、ピンッと背筋の通った姿勢を保ちつつも、とても生き生きとして、「ニコニコ」と楽しそうにお寿司を握っているのが非常に印象的でした。
長く厳しい修行を経て、いくたの競争に勝ち抜き、今ここでこうして「晴れ舞台」「桧舞台」で高級ダネを使って、目の前のお客様へ寿司が握れる・・・・「久兵衛」と言う寿司職人として「超一流」「最高峰」のステージに、今自分は立っている・・・・という喜びと自信に満ちあふれている印象です。
なお、つけ場には、ガラス製のネタケース等は置かれておらず、順次、厨房から小皿に入れて運ばれて来ます。
縞鯵
三貫目は、なかなかお目にかかれない、「幻の魚」などとも評される高級魚の「シマアジ」です。
旬は夏で、アジ類の中でも最も美味しい魚と言われています。その名の通りアジ科ですが、魚長1mにも達する中型魚で、見た感じは「カツオ」に似ています。
このタネにも、煮きり醤油が塗られています。
食べてみますと・・・・味や食感や香りは、天然のブリに近い気がしますが、野性味が少なく、もっと気品のある味でした。
ところで、久兵衛の寿司は「タネ」の良さもさることながら、「シャリ」が抜群に美味しいと言う話を良く耳にしていました。
とても楽しみだったのですが、シャリの味が良く判りそうな「白身」の握りが二つ続いたにも関わらず、敢えて「特筆」されるほどのシャリの美味しさとは感じられませんでした。
しかし、だからこそ・・・・「ベスト」なのだとも言えるでしょう。タネを置き去りにして、独りで独走してしまうような突出した美味しさのシャリでは困ってしまいます。
シャリはサイズが小さいと言うこともありますが、自身の存在をあまり意識させず、常にタネの影として立ち居振る舞っている印象です。
パラリとほぐれますが、とてもまとまりが良く握られ、口に入る前に崩れるようなことは一切ありません。
硬すぎず、柔らかすぎず・・・・いたずらに「インパクト」や「個性」を出すと言うことはなく、いぶし銀のような「準主役」「名脇役」の演技に徹する超ベテラン名俳優のような・・・・
どんな寿司ダネと組み合わされても、タネの個性に合わせて、見事にその持ち味を支える・・・・「内助の功」、常に「不即不離」、付かず離れず夫を立てる慎ましい良妻のイメージですね。
ちなみに、久兵衛はシャリに砂糖をまったく使っていないらしいので、控えめの酢だけが僅かに利かされ、このように非常に淡いナチュラルな味付けになっているのだと思います。
シャリの温度は寿司の理想と言われるほんのりとした「人肌」ですが、決して「温い」(ぬくい)とまでは感じない控えめな温度にとどめているのは流石です。
アオリイカ
次に登場したのは「アオリイカ」です。なんとも・・・・美しい姿形の握りですね。
「塩」と「柚子」(ゆず)が振られていますので、醤油に付けずそのまま食べました。
アオリイカの身肉は「モッチリ・・・・」としていて、それでいて歯切れが「サックリ」とする絶妙な歯応えです。
塩味だけで食べたので、イカ特有の旨味がとても濃く堪能できます。
「柚子」のデリケートな酸味と香りは、これみよがしに効いているのではなく、本当に「隠し味」的に極微細なもので、イカの美味しさの後からほんのりと追いかけるようにやって来ます。
ちなみに、この後も、この「柑橘」エッセンスを巧みに使った寿司がいくつか登場しますので、「柑橘」は「久兵衛」の寿司の流儀の一つになっているようです。
ウニ
次に登場したのは「ウニ」です。美しいオレンジ色からすると、おそらく「バフンウニ」でしょう。
食べてみますと、味わい、口解け感とも、ほぼ予想範囲内と言う感じの美味しさです。海苔は風味良く、厚みがあり、食感がしっかりとしていて、ウニの風味と良くマッチしています。
時折、ウニの純粋な美味しさを味わうためには、香りの強い海苔の風味が邪魔だとして、海苔を使わずにウニを握るお店がありますが、私的な好みとしては、ウニは海苔の風味が加わった方が美味しいと思っています。
ちなみに私の最も好きな寿司ダネは・・・・「大トロ」でもなく、「アワビ」でもなく、「鯛」でもなく、この「ウニ」です。
しかし、ウニは種類と産地と品質により、その味わいは千差万別です。
スーパーなどで「折り」に入ったものを買う事もありますが、「見た目」だけではなかなか味が判らないのが悩ましいところです。
美味しいウニとは滑らかな粒立ちの食感もさることながら、ともかく「深い深い・・・深遠なる味の深さ」「幾重にも変化して現れる七重のコク」こそがウニの醍醐味だと思います。
時折、妙に苦いウニと出会うことがありますが、それは保存目的で「ミョウバン」を添加し過ぎたものです。長い輸送を必要とする外国産のウニは、特にミョウバンの量が増える傾向にあるようです。
ちなみに、ウニの軍艦巻きは、こちらの「久兵衛」が初めて考案したそうです。
初代の店主氏が、北海道から来た客が持ち込んだウニを、試行錯誤の上でこのような形で寿司に仕上げ、「軍艦巻き」と言うスタイルを完成させたそうです。
ユズを搾るシーン
寿司ダネへ「柚子」を搾りかけているところです。
脇に緑色の丸い柚子が見えます。ビン入りの果汁ではなく、生のものを使っているんですね。
ちなみに、「柚子」(ゆず)の近縁種として、「酢橘(すだち)」と「香母酢(かぼす)」がありますが、遠目のため何を使っているのか正確なところは判りませんでした。
それぞれ「酢橘」は徳島県、「香母酢」は大分県の特産品として区別されています。
車海老
なんとも肉厚で立派な「車海老」です。
どうやら直前まで活きていたようで、握って出された直後は、塩を振りかけられた事もあると思いますが・・・身が「ピクピクッ」と動いていました。
この海老にも、微細な「柚子」らしき柑橘系の爽やかな風味と、塩が振られています。
醤油に付けず、そのまま頂きました。
モッチリとする粘りのある歯触り、プリプリとする筋繊維・・・・が、何とも独特です。海老の味そのものよりも、この「歯触り」を楽しむお寿司だと思います。
ちなみに、カニや海老などの甲殻類は、「ナマ」ですと、ネットリとした透明感のあるゼリー状の身肉の食感を楽しむには良いですが、「味」そのものは、生の状態ですと甘味がやや弱いです。
加熱することで、旨味が数倍に活性化し、甘味も感じるようになります。
私も以前、料亭でビチビチと跳ねて暴れる活きた車海老を「踊り食い」したことがありますが、あくまで「食感」を楽しむものであり、「味」そのものとしては、やはり加熱した方が旨味や甘味が活性化して美味しい気がします。
赤貝
「赤貝」です。見事な身肉の厚さと、目が覚めるような鮮やかな色あいです。
握る前に、「パシッ」「パチンッ」とまな板へ叩き付けていました。こうすることで身が縮んで、歯応えに締まりが出て来るようです。
そのせいか、まだ「グニュゥ〜」と身が動いていました。
食べてみると・・・・まさしく「目の覚める」ような・・・・あまりにも、「非日常の世界」を持つ美味しさです。
小気味良くコリコリとするメリハリのある生き生きとした歯応えも最高ですが、何より「香り」が素晴らしく、さらに、それ以上に深みとコクのある「鮮烈な味」が比類のない美味しさです。
口に入れて噛み砕くと、60秒位は、様々な味が次々に舌の上に姿を現して来ます。
そのまま、じっと舌を動かさず、舌に神経を集中していると・・・・とても深い位置で、決して単調ではない、「めくるめく」深い濃厚&複雑な味が湧き立っている事に気付きます。
次々にメッセージが紐解かれ、その度に深い深い「地下」へと続く長い階段を、何段も何段も深く降りていって、何回も何回も扉を開け、次第に赤貝の真の姿と「邂逅」する・・・・という印象です。
地下の迷宮へ降りてゆき、未知なる味と出会う地底探検・・・いや、「海底」探検の様相ですね。
実際、赤貝の身にこれだけ様々な旨味が潜んでいることに驚嘆します。
ナマの貝類には割と臭みを感じる事が多いのですが、臭みは絶無で、凄まじく「香り」が良いです。まさに「海の芳香」です。
そして・・・「魚」とも「イカ」とも異なる「貝」独自の味わいは、「海洋生物の神秘」とも言える「複雑」で「深遠」で「きれいな味」なのですが、繊細であると同時に「力のある味」です。荒い海で生き抜くにはこれ位の力強さが必要なのでしょう。
ちなみに「赤貝」と言う名前の寿司でありながら、実際には「赤貝」の近似種である「サルボウ貝」や安価な「サトウ貝」を出す鮨店も少なくないそうですが、殻から出して寿司にしてしまうと、見た目には素人には見分けが難しいです。
しかし、このあまりにも大きな味の差を知ると、今まで食べて来た自称「赤貝」は、すべて「サルボウ貝」や「サトウ貝」だったのかも知れないと言う・・・・ちょっと複雑な心境になってしまいました。
大トロ
寿司ネタの横綱・・・・「大トロ」です。
こちらも「中トロ」同様に、味わい、口解け感とも、ほぼ予想範囲内と言う感じの美味しさでした。
「まぐろ」などの人気のタネは、あまり気負いせずに、実に「ソツ」なく、「サラリ・・・」とさりげなくまとめて来る感じです。
ただ、たまたまとは思いますが、後口にほんの少し「筋」が残る感じを受けました。
ちなみに、「マグロ」の場合、広大な海域を回遊するため漁場が広く海外にまで及び、漁場により、また「クロ」「キハダ」「メバチ」「ビンチョウ」などの種類により、その旬が大きく異なるそうです。
しかも、実際には、出回っているマグロの多くは「冷凍物」ですので、あまりマグロの「旬」と言うものは意識されないままに、食べられているようですが、
こと、近海物で、かつ、「生」で流通された「クロマグロ」(本マグロ)に限って言えば、その旬は主に「冬」の頃と言われています。
実際、クロマグロは5〜6月が産卵期に当たりますので、産卵を終えてすっかり身の細った「初夏」の頃のクロマグロは、一部の食通からは「こんにゃくまぐろ」などと揶揄される事もあるようです。
しかし、それでもなお、「マグロ大好き」の日本人ですので、お寿司屋さんとしては、「通年」に渡り、近海産の本マグロを出さない訳にはいかないのでしょう。
車海老の焼き物
先に出された車海老の握りの「頭」が焼き物として提供されます。
こんがりと焼かれて海老独特の香ばしさが素晴らしいです。「海老味噌」(内臓)がしっかりと詰まっていて味噌の味が深いです。
良く味噌汁へ海老の頭を入れて出すお店がありますが、煮るのと違って、「こんがり」と焼かれているので、頭から「パリパリ、サクサク」と丸かじりで美味しく食べられました。
うーん・・・これは、お酒が欲しくなりますね。
気のせいか・・・粕漬けのような・・・「酒粕」のような風味が感じられました。
調理シーン
お隣のお客さん用に「アワビ」を切っているところです。
コースとは言え、苦手な寿司ダネなどは、ある程度、希望のタネに変えてもらうことが出来るようです。
一点の曇りなく、「ギラギラ」と美しく光り輝く包丁に、名店の「誉れ」(ほまれ)を感じます。これほどに、ピカピカに研ぎ澄まされ、完璧に手入れされた包丁は・・・・まず、滅多にお目にかかれません。
さらに、これだけ手が届くような距離で、かつ、遮るもののない目線の高さで・・・・・寿司業界「トップクラス」の職人さんに、一つ一つタネを切り分け、手酢をし、「自分」の寿司を握ってもらう・・・・・のですから、これぞ、「寿司屋のカウンターで鮨を食べる」醍醐味に他ならないでしょう。
ちなみに、横にある「おひつ」にシャリが入っているのですが、随時、ちょこちょこと厨房からシャリの補給にやって来ます。
乾かないように少量ずつ出しているのでしょう。
味噌汁
終盤に登場する「椀物」です。中身は「シジミ」でした。
味のスリムな赤だしではなく、旨味と甘味のある味噌汁で美味しいです。
カツオ
職人さんから、「次はカツオなのですが、ニンニクを添えても大丈夫ですか?」と尋ねられましたので、「はい」と答えました。
食べてみると・・・・ニンニクが乗ることもありますが、「スパーンッ・・・」と、まさしく「鰹」の濃い味が、荒々しく口中で炸裂するようなパンチと力強さがあります。
ニンニクのパンチに加え、後口には、紫蘇(大葉)の清々しい香りが漂い、口中をリフレッシュしてくれます。
紫蘇は見当たりませんが、おそらくカツオの下に挟んであったのだと思います。
この鰹・・・・今は6月ですので、東北の辺りを北上中の「初かつお」と言うことになるのでしょう。
この握りだけ、他のタネとは「異質」と言うか、荒々しさがあり、地場っぽさを感じる、一風変わった別路線の握りのように感じられました。
アナゴニ種
さて、いよいよ、久兵衛の名物「穴子」の登場です。
半分に切られ、片方は「塩」、もう片方は「煮ツメ」で味付けされているのが特徴です。
炙ってありますが、決して熱々ではなく、ほんのりと「温もり」を感じる位のまさしく「人肌」の優しい温度です。
まずは「塩」から食べてみますと・・・・ふっくらとして甘く、魚としての身肉の食感と甘い脂の味が純粋に一切の混じり気なく生きています。
焼き目の香ばしさが生き、加熱して活性化した「脂」が尋常ではない美味しさです。
そこへ、やはり微細な柑橘風味が僅かに香りを添え、風味に膨らみを加えています。
何と言うか・・・・この一口の寿司の中に、「様々な味と香りが息づいている」、味わいの「小宇宙が存在している」・・・・と言うイメージです。
柔らかいとか、トロけるとか・・・・既にそう言う次元ではなく、「あなご」の本当の美味しさ、その真実の姿を披露される気分です。
もともと最上の穴子なのだと思いますが、同時に一切の旨味を逃がさずに寿司にしている印象です。
普段、穴子はヌルヌルした魚に特有の「生臭み」を感じる事が多いのですが、そのような事も当然ながら絶無です。
私が過去に食べ歩いた、穴子では文句なくナンバーワンです。
うむむ・・・・・この穴子の寿司を頂くと、俄然、久兵衛の「名店」としての風格、その無尽蔵の実力の片鱗を、
目の当たりに突き付けられる気がしますね。
他では、まず滅多に同じレベルの穴子には出会えない事でしょう。
良い穴子を仕入れるだけでなく、ハイレベルな「仕事」を施さないと、こういう味にはならないと思います。
この「塩穴子」は、今回頂いたお寿司の中では、先の「赤貝」と並んで、最も気に入りました。
一方の「煮詰め」の塗られたタレの方は、単独で食べれば絶品の部類なのだと思いますが、「塩穴子」を食べた直後に食べてしまうと・・・・
タレの味が加わる事で、せっかくの絶品穴子の身の味が、正確に判り辛くなってしまう気がします。
穴子のツメは、甘くもなく辛くもなく・・・言うなれば「アナゴの旨味を凝縮した」ような味のタレです。
同じ味を重ねる事で、より深い満足感が得られるように狙っているのだと思いますが、まるで、「同じ事を二回言われる」ようで、やや味が焦点化しづらいですね。
そして、せっかくの光り輝く美しい「素肌」に、敢えてやや厚めのお化粧をさせて、素顔を判りづらくさせてしまったような印象を受けました。
巻物製作シーン
巻物も流れるような、目にも止まらぬ「疾さ」「迅さ」で巻かれて行きます。
この辺りで、そろそろ結構お腹が膨れ始めて来ました。ゆっくりと食べているので、脳が満腹の信号を感じやすいのでしょう。
また、職人さんは常に手を動かしながらも、客同士の会話にもきちんと耳を傾けているようで、実にタイミング良く「スッ・・・・」と会話に加わり、二言、三言、会話に花を添えると、再び「ササッ・・・・」と会話から抜けてゆくと言う・・・・その接客ノウハウは素晴らしいものがあります。
話題も豊富で、愛想も素晴らしく、きちんと客の顔を見て会話してくれます。おそらく一度来たお客さんの顔はすべて覚えているのではないでしょうか。
それ位に前向きで、「客商売」の奥義をしっかり身に付け、きちんとマスターしているイメージです。
巻物四種
さて、いよいよラスト僅か、「巻物」の登場です。
上から、「タクアン」、「ひもキュウ」、「かんぴょう」、「ネギトロ」です。
「ひもキュウ」とは、赤貝のヒモとキュウリを合わせ、白ゴマを振ったものです。
海苔の香りが素晴らしく、いかにも高級海苔に感じます。
実際、食べてみますと・・・・「海苔」の厚みがしっかりとしていて全くヘタリを感じません。ただ、逆に言うと、海苔が「溶けない」ので、やや歯触りが硬く感じられる気もします。
この中では、特に「タクアン」が気に入りました。
ポリポリする歯応えが小気味良く、糠の風味がほんのりと香り、とても美味しいです。
大根
巻物を食べていると登場する、大根で「練り梅肉」と「白ゴマ」と「大葉」(紫蘇)を挟んだ「お口直し」です。
梅の酸味がたっぷりと唾液を分泌させ、口中を洗い流してくれます。
大根は瑞々しく、糠の香りもしないので、おそらく浅漬けなのでしょう。
茄子
口直し第二弾、「茄子の漬物」です。
こちらも糠の風味は感じられず、田舎臭さというものがないです。
舌に気持ちよく「ヒンヤリ」と冷やされていて、そのクールなテイストが口中をリフレッシュしてくれます。
サッパリとしていて、口直しにピッタリですね。
玉子焼き
そして、いよいよ「ラスト」を飾る一品、芝海老のオボロが混じった「玉子焼き」です。
うーん・・・・ギリギリまで入れられた包丁の切れ目が見事です。
香りを嗅ぐと、こんがりと焼かれた玉子の香ばしさに混じって、日本酒の良い匂いがうっすらと漂います。
ご飯粒との比較で判るかと思いますが、大きさ的には一口サイズと言う感じで、割と小さめで可愛い感じです。
ところが、一つ頬張ってみて・・・・数秒・・・・・・。
「ゾワゾワゾワ・・・・」と、鳥肌が立ち、そのまま身動きができなくなってしまいました。
背筋が凍り付く感覚に襲われ、まさに全身「金縛り」です。
いやはや、何と言う恐ろしいほどの玉子の「肌理」(きめ)の細かさでしょうか・・・・。
口当たりは舌に吸い付くように「しっとり」として、あまりにも、比類のない「滑らかさ」と「口解け感」です。
ふっくらとしたダシの味わいと、ほんのりとする海老の甘さが、玉子と溶け合い醸し出す「味わい」もまた、まさしく「夢見るような・・・・」優しく柔らかな味わいです。
しかもこれほど厚みがあるのに「気泡」や「す」が絶無で、全体の食感が極めてウェット&ソフト、完璧に「均質」「均一」なのには恐れ入ります。
おそらくはもの凄い集中力と長時間をかけて、じっくり、じっくり・・・・と、全身全霊で焼き上げているのでしょう。
さらに・・・・表面の「焼き目」の見事さ・・・・言葉を失いますね。これだけしっかりと焼き目が付いていながら、表面付近が全く硬くなっていないのです。
玉子焼きを柔らかく均質に仕上げるため、「焼く」のではなく、まるで「蒸し上げた」ような・・・・まるで「焼き色」の付いていない玉子焼きを見かけることも少なくない中、これだけ見事な美しい「焼き目」を付けられるお店が、今、果たしてどれだけあるでしょうか・・・・。
いやはや・・・・ちょっと油断していた私の心が見透かされたかのように、最後になって、こう言う玉子焼きを出して来るとは・・・・。
先の「塩穴子」同様に、ラストが近づくに連れ、久兵衛の「名店」&「老舗」としての風格、類まれなるレベルの高さ、その明らかな「格の違い」を、まざまざと見せつけられる気分です。
果たして、この玉子焼きに「比肩」できる玉子焼きを焼ける寿司店が、全国に何店存在するのでしょうか・・・・。
その寿司屋の実力を知りたければ、「玉子焼き」(ギョク)を頼め・・・・と言う人がいます。
要は、仕込むのに最も「技術」と「根気」と「経験」が必要な「難しい」寿司ダネだと言うことなのでしょう。
この「玉子焼き」は、私に無言で語りかけて来ます。
「どんな難易度の高い寿司でもご希望通り完璧に握ってご覧に入れます」・・・・と。
ある意味、この玉子焼きは久兵衛からの「宣言」でもあるでしょう。
この玉子焼きの難易度に比較すれば・・・・どんな寿司も握るのは容易だと。
つまり、「久兵衛」がその気になれば、この世に握れない寿司はないのだと・・・・。
この玉子焼きを一口でも食べれば、世のほとんどの寿司職人は、その顔色を失い、沈黙してしまう気がします。
西瓜
最後のフルーツも三種類から選べます。
私が選んだ「スイカ」です。
ヒンヤリ適温に冷やされ瑞々しくて美味しいですが、良質のスイカをそのまま切っただけと言う感じで、特段のサプライズはないです。
しかし、先の「神業」のような玉子焼きの直後だったこともあり、そのシンプルさに、むしろ「ホッ・・・・」と安堵させられるような気持ちです。
メロンのゼリー寄せ
こちらは同行者の注文した「メロンのゼリー寄せ」です。ヒンヤリと冷えていて、ミントの葉が良いアクセントです。
少し味見をさせて頂いたところ、フルーツの香りも甘味も素晴らしく、高級感があり、それでいて砂糖のベタッとして甘さとは異なるナチュラルなスッキリとした後味です。
その辺のやたらな洋菓子店のデザートが裸足で逃げ出すハイレベルな美味しさですね。
フルーツを食べ終え、アガリを頂き、一息ついてから、「ごちそうさまでした」と言うと、
職人さんや仲居さん達は、全員が「これ以上はない」と言うような素敵な笑顔と明るい声で「ありがとうございました」と一斉に頭を下げ、挨拶を返してくれます。
その声がまた、何とも絶妙なトーンで私達の背中へと響き、決して上辺だけではない感謝の念がしっかりと伝わって来ます。
ここまで、しっかりと「客を客として扱ってくれる」お店は、ありそうでいて・・・・実はなかなか無いと思います。
美味しい寿司を「食べ終えた満足」に加え、「来て良かった」と言う、さらに一段階上の「顧客満足度」の領域でしっかりと満足をさせてくれますね。実に客足が絶えないはずだと思います。
ちなみに会計は一階まで仲居さんが付き添ってくれますので、一階で済ませます。
高価そうな陶器
帰りのエレベーター待ちの際、5Fのエレベーターホール前に展示された立派な陶芸品が目に入ります。
ちなみに、「入店」から、「退店」まで、この日は、ほぼちょうど60分ほどでした。
これらの作品は「久兵衛」に所縁(ゆかり)のある北大路魯山人の作品なのでしょうか。
こちらのビルの四階には魯山人ミニギャラリーがあるそうです。
久兵衛別館
本館から、有楽町方面へ20メートル程の場所にある「久兵衛」の「別館」です。
本館と同じようなデザインですね。
すきやばし次郎
こちらは「久兵衛」から歩いて5分ほど、数寄屋橋交差点のビル地下にある「鮨・すきやばし次郎」です。
有楽町や銀座界隈では、「久兵衛」と並ぶ高級寿司店の双璧と言われています。
さて、食べ終わっての感想ですが・・・・・
何とも「懐の深いお店」ですね。
初心者にも、食通にも・・・・・
一見客にも、常連客にも・・・・・
独りで行っても、グループで行っても・・・・・
これほどきちんとした応対をしてくれる寿司店は少ないのではないでしょうか。
職人さん達は、凛とした心地良い程度の緊張の糸を張りながらも、とても楽しそうに寿司を握っているのが印象的です。
職人さん達も、仲居さんたちも「自覚」と「自信」に満ちていて、客としては頼もしい限りです。
会話の技術も、おもてなしの心構えも超一流です。「もてなし」の心と「アミューズ」の技術を徹底して勉強し、マスターしている感じ・・・・ですね。
ちなみに、「寿司」そのものの味についてですが・・・・これだけ座席数が多いと、毎日相当な数の寿司が出るでしょうから、例え同じタネであっても、すべて同一レベルの品質で揃え切るのは難しいでしょうし、仕込みや握りを担当する職人さんの数も膨大ですので、厳密に言えば一貫ずつ微妙に異なる味になっているはずだと思います。
今回は、「赤貝」と「アナゴの塩」が最も気に入りましたが、先にも述べたとおり、「玉子焼き」に代表されるこちらのお店の計り知れない技量の高さには、実に「震撼」させられるものがあります。
そう言う意味では、「久兵衛」が本気で「全力投球」した時の寿司は、想像し切れない超絶レベルのものが出ると確信しますが、これだけの大所帯と言うこともあり、連日連夜、常にアクセル全開の最高速度で走り続けるのは難しい面もあるかも知れません。どのような高性能のスポーツカーでも、あくまで「最高速度」と、「巡航速度」は異なります。
また、握られる寿司は、意外に「変化球」が少なく、客が食べやすい、打ちどころの球・・・・ど真ん中のストレートをほおって来るイメージも受けます。
これだけ客層が広いと、あらゆる好み、あらゆる嗜好にスムースに受け入れられるように考えられているのでしょう。
実際、銀座の本館と別館の他にも、京王プラザやニューオータニ、帝国ホテル大阪などなど、超高級ホテルへ支店を展開しているようですので、「久兵衛」の寿司・・・・と言うものは、店主氏一人が握る寿司ではなく、これらのツケ場に立つ何十人と言う寿司職人さんの「集合体」「平均値」と言うことになります。そのため、握り手としては、他の職人と極力同じように握らなければならない訳で、極力、自分の「個性」を平均化し、「クセ」を消す事に意識を集中している気もします。
そう言う意味では、お一人か、お二人位で切り盛りされているお寿司屋さんは、ご主人のクセや価値観、こだわりのようなものが如実に伝わって来て、良くも悪くも「面白い」ものですが・・・・こちらのお店は、職人さんと仲居さん全員が一丸となって、寿司業界の「トップチーム」を狙っているような雰囲気があり、客としてもまるで「イベント」に参加するようなワクワクする楽しさがあります。
お寿司は美味しい上に、名店の歴史にも触れる事が出来、何よりも「気分良く食べられる」「楽しく過ごせる」「満足して店を出られる」と言う意味では、「誕生日」や「記念日」などの大切なイベントにも最適なお店だと思います。
(すべて完食。)
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