01ch グルメ食べ歩き
石ばし
(東京都 文京区)

店名 蒲焼 石ばし(いしばし)
住所等 東京都文京区水道2-4-29 【地図表示】
禁煙 タバコ分煙(入口横のテーブル席は完全禁煙)
訪問日 2005年11月中旬 うな重(上) 2800円




〜鰻処 石ばし〜



2005年11月中旬 うな重(上) 2800円

今回は、都内の「高級うなぎ店」の中でも「五指に入る美味しさ」と巷で評判の「蒲焼 石ばし」(文京区・江戸川橋駅)さんを訪問してみました。
店名は「石橋」ではなく、「いしばし」でもなく、「石ばし」と書きます。


 神田川沿いの風情ある場所

こちらのお店、神田川沿いと言う・・・「川魚」である鰻のお店としては、いかにも雰囲気のある場所にあります。
上の写真で道の先の信号の辺りがちょうど神田川です。
実際、戦前までこの近辺は、神田川を「生簀」(いけす)代わりにして天然ウナギの集積地として大いに賑わい、この周辺は「うなぎ屋」さんの多く集まる名所でもあったという事です。。

なかなか風情のある街並みですが、周囲は道が細く入り組み、一方通行が多く、コインパーキングも限られているため、車で伺う時には時間に余裕を持った方が良さそうです。
「石ばし」の看板には「うなぎ」ではなく、「う」と一文字だけ書かれています。これは昔の慣習にならったもののようです。


 赤レンガの門が粋です

赤レンガの渋い門構えをくぐると、こじんまりとした庭になっており、竹垣などが風情を醸して、一瞬にして「昭和」の世界へタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。
玄関先に「打ち水」がされているのも粋ですね。


 ガラス引き戸の入口

お庭はこじんまりとしていますが、植木は品良く手入れされています。
飾り気のないすりガラスの「引き戸」が下町情緒を煽ります。


 情緒を醸す竹垣

うーん・・・・すりガラスを通した明かりは、どこか幻想的で優しいです。
まさしく、「侘び、寂び」の世界、自然の木々と調和した優しい「和」の空間です。


 玄関脇のテーブル席

引き戸を開けると、まずは左手にテーブル席スペースがあります。
四人掛けテーブルが3卓あります。こちらのスペースは完全禁煙になっています。


 縁側と懐かしいすりガラス

靴を脱いで廊下へ上がり、左手へ進むと縁側になっていて、いくつかの座敷スペースがあります。
木の枠による薄いガラス戸と障子が実に懐かしい雰囲気です。


 凛として整った座敷席

お座敷はピカピカに磨かれた座卓が高級感を醸します。
分厚い座布団が敷かれ、まるで江戸時代の時代劇撮影セットのような印象です。


 メニューの前書き

「石ばし」ヒストリーの解説と戦前の写真。

静岡県吉田町の鰻を使用しているようです。
「吉田」の鰻は、駿河湾に注ぐ大井川の豊かな伏流水で育てた美味しい鰻として良く知られています。
実際、「通の間では、鰻は吉田町に限ると言わしめる程に美味しい・・・・」との評価もあるようです。

鰻料理は、「串打ち三年、裂き八年、焼きは一生」とのこと。


 うな重のメニュー

こちらのお店は、昼も夜も満席になってしまうことが多いため、訪問時は「予約」をした方が良いと思うのですが、予約時におおまかな注文内容を尋ねられます。
ちなみに、「うな重」の種類は、「特上」「上」「並」と分かれますが、メニューの説明書きによると、うなぎの「質」自体はすべて静岡県産の同一のものであり、単にうなぎの「重量」のみによって、三つに分けているそうです。

前回、こちらへ訪問した際に、うな重の「特上」を食べているので、今回は「上」にしてみました。


 飲み物のメニュー

ビール、日本酒、麦焼酎、芋焼酎、ウィスキーと一通り揃っています。
焼酎とウィスキーは、半年間のボトルキープもできるようですね。


 夜のご宴会メニュー

夜のご宴会コースは二種類。
前日までの予約制のようです。


 「鰻」についての薀蓄

関東と関西の鰻の料理法の違い、鰻や蒲焼の名前の由来、鰻の栄養分、土用の丑の日の解説などが書かれています。
ちなみに、こちらの「石ばし」では、土用の丑の日は鰻の供養として定休日になっているようです。


 営業時間など

鰻を焼くのに時間がかかるためでしょうか、昼も夜も営業時間の一時間半前にラストオーダーになります。
「石ばし」では、お客様の来店があってから、活きうなぎを割き始めるようです。
そのため、割き、串打ち、白焼き、蒸し、蒲焼・・・・・と、おおむね40分から1時間はかかるとメニューに案内が書かれています。

テーブル席には新聞や雑誌類も少し置いてあり、お茶を飲みながら気長に待つことにします。


 濃い目の緑茶

お茶を飲みながら、のんびりと待ちます・・・・・・。


「うなぎ屋で、早くせよとは、野暮なこと」

と言う川柳もあるようです。


20分経過 ・・・・・・。


30分経過 ・・・・・・。


実際にこの日も入店から、うな重の登場まで、まさに「ぴったり40分」でした。



 輪島塗の重箱で登場

いよいよ輪島塗りの重箱に入ってご登場です。
ちなみに、「輪島塗」とは、石川県輪島市で生産される「漆」(うるし)を丹念に塗って仕上げた木製の椀物や木箱などの伝統的工芸品のことですが、通常は「朱色」や「黒色」が多いですね。
こちらの重箱は珍しい「深緑色」の漆塗りで仕上げられていて、ユリの花の加飾が施されています。

「肝吸い」と「香の物」もセットで付いてきます。



 「うな重(上)」 2800円

お、おおおおーーー。
フタを開けてみると、うなぎは・・・・・何と言う「あでやか」な色艶でしょう。

うーん・・・・うっとりと見とれてしまいそうです。
身肉が、まったく「反って」いないのは、「蒸し」が長く、かつ、高度な「焼き」の技術の賜物でしょう。

そのうえ、この周囲一帯へ立ち昇る芳ばしい「香り」の素晴らしさ・・・・。
この重箱のフタを開ける一瞬こそ、まさに、うなぎ大好き人間の「至福」の瞬間でしょう。



 鰻のアップ

さっそく一口食べてみると・・・・

うなぎの脂の乗りも適度で、十分なコクと旨味、豊かな香りがありますが、決してギトギトとか、ベタベタするしつこい野暮な感じはありません。
川魚の泥臭さなどは絶無で、「真っ白な美しい白身」そのものの、まさに輝くような旨味に満ちあふれて、なんとも「上品」な仕上がりだと思います。
メニューの説明によれば、静岡県吉田町産の鰻を使用しているとの事ですが、やたらと鰻の脂分が甘いと言うこともなく、身肉も太りすぎておらず、人工的な飼育感を感じさせないナチュラルな鰻の美味しさこそが、こちらの鰻の魅力だと思います。

タレは、珍しく甘味が少ない「硬派」なタイプです。口当たりもベトベトしないでサラッとしています。
味付けは濃くも薄くもなく、「押し」も「引き」もしない・・・・まるで素材の「鰻」の本来の持ち味そのものの輪郭を、きれいに「なぞるように」タレの味が感じられる・・・・極めてニュートラルな味付けです。

そう言う意味では、何より「うなぎ」の良質さを堂々と最前面に持ってきている造り込みであり、濃いタレによるクセやゴマカシなどの一切ない、実に「正道の美味」だと思います。



 皮が実にトロトロで美味

「鰻」の断面のアップ画像です。

「表面」は、絶妙に「こんがり」としていて、焦げたタレと油が非常に芳ばしく・・・・。
「身肉」は、瑞々しく「ふっくら」として、どこまでも柔らかく・・・・。
「外皮」は、「トロトロ〜」にとろけていて、まるで舌に吸い付くようです・・・・。

まさに、この三者の「口当たりのコントラストの妙味」こそが、絶品うなぎの何よりの「醍醐味」でしょう。
特に「皮目」の柔らかさ、トロける感じは、まさに「割き立て」のうなぎの証拠ですね。
また、口当たりが実にしっとりとしていて、上品で、瑞々しく、そして鰻のどこを食べても柔らかさが均一なのは、焼きの技術が素晴らしいからでしょう。


ちなみに・・・・活きていた鰻を桶から出してさばくことから始めると、鰻の大きさにもよりますが、どれほどのベテラン職人でも、鰻重の提供まで早くても30〜40分前後はかかります。
ですので、もし10〜15分など、極端に早い時間で鰻重が提供されるようであれば、おそらくは事前に「白焼き」や「蒸し」の段階まで済ませてあった鰻であったり、あるいは、すっかり焼き上がっていた鰻を単に「温め直しただけ」と言う可能性があります。

作り置きしたうなぎをすべて否定する訳ではありませんし、常に行列が出来るようなお店であれば「見込み」で次々に調理し、タイミング良く「出来立て」を出すことも可能でしょう。
ですが、もし作ってからあまりにも時間が経ってしまったり、保存の状態が悪かったりすると、鰻の身が硬くなってしまい、まさに「スーパーで売られている鰻」の食感に近くなってしまいます。

時間が経つほど、身肉も「コチコチ」に縮んでしまい、硬直し、まったく「ふっくら」感がなくなってしまいます。
一度そうなってしまうと、もう、どのように上手に温めなおしても、デリケートな鰻の白身の食感が「焼き立て」の状態に戻る事は絶対にありません。
特に「鰻の黒皮」がまるでビニールのように硬くなって、ビヨンビヨンと伸びる感じになってしまい、決して口の中でトロけません。
本来であれば、何よりうなぎはこの活性化した皮ぎしの脂こそが抜群に美味しいのですが・・・・。

それゆえ、「こだわるお店」は、だからこそ、活きたウナギを、わざわざ客が来てから割き、一連の淀みのない調理の後、まさしく「出来立て」「焼き立て」を出してくれる訳です。

今や、スーパーなら800円前後も出せば、なかなかのサイズの「国産の鰻」をタレ付きで手軽に買える時代です。
それを、わざわざ専門店へ出かけて行って、何倍もの値段を出してまで食べると言う事は、つまり、それなりの「意義」(=割き立て)を客は求めているのではないでしょうか・・・・。
ですので・・・・せめて、鰻重に2000円以上のプライスを付けているお店であれば、ぜひこちらのお店のように「活き鰻」を割いて出して欲しいと思います。



 山椒

山椒は可愛い小壷に入れられています。
途中から山椒を少しかけてみましたが、やたらと香りが強すぎず、何よりも主役の鰻の香りを第一に、風味の調和を大切に調合したような印象を受けます。



 香の物

「香の物」は四種の盛り合わせです。
蒲焼に、あっさりしたキュウリやタクアンを添えるのは定番ですが、「ウリの奈良漬け」はどうなのでしょう?

私には酒粕の強い風味が斬新に感じられますが、濃い味の蒲焼に、濃い味の奈良漬を重ねるのは・・・・口直しの「逆療法」と言うことでしょうか。
ただ、実際に蒲焼に奈良漬が添えられる例は少なくないようです。



 肝吸い

肝吸いには三つ葉と椎茸が入っていて、山野の清々しい香りを付与してくれています。
鰻の肝吸いに三つ葉は定番ですが、椎茸が入るのは斬新な感じです。しかし、意外にも風味が非常に良く合っています。



「石ばし」への訪問は、今回で3回目なのですが、相変わらず、鰻の質、焼きの上手さ、タレの染み込み具合、さすがに都内屈指の評価は伊達ではありません。
ただ、今回のみ、ちょっとだけですが、タレにやや生醤油が立ってしまったような微妙なしょっぱさを感じました。
一口目からややはっきりと感じられ、最後まで変わりませんでしたので、部分的なタレ塗りのムラではないようです。そのため、タレの鋭角的な口当たりが、極僅かですが鰻の旨味をそいでしまっていたような気がしました。
ちなみに二人で行ったのですが、試しに同行者のうなぎを少しもらったところ、全くしょっぱくなく完璧なタレによる、実にふっくらした柔らかな味わいで「美味さ全開」でした。
二つのうなぎで使ったタレが違うとも思えないのですが・・・・不思議です。

また、夕方の開店とほぼ同時に訪問したせいか、御飯がやや「蒸らし」不足に感じられました。
炊く時の水が少ないと言うのではなく、蒸らす時間が短かった感じで、ちょっとまだ米の芯が残ってしまっている感じがあり、従来ほどは「ふっくら」していなかったです。
そのため、かき込むと、米の粒が少々舌に当たる感じになってしまいました。米に関しては同行者のものも同様でした。
こちらのお店のご飯はもともと多少硬めの炊き加減を狙っているようにも思えますが、過去二回の訪問時は「ふっくら感」もきちんと同居した絶品の炊き加減でしたので、今回は「ブレ」の範囲と言うことなのでしょう。


こちらのお店、神田川沿いにひっそりと佇む感じで、非常に閑静な場所にあります。
ただ、木造の歴史ある建物ですので、壁が薄く、廊下の床が鳴り易いこともあり、防音に関しては「昔ながら」と言う感じです。
特に玄関入ってすぐのテーブル席に座ると、厨房が近いため、団体客が座敷へ入って忙しい時などは、頻繁に往来する仲居さんたちの足音がバタバタして結構にぎやかに感じられます。
接客もとても愛想が良く、気取りがなく、親しみがあり、良い意味で家族経営的な温かなイメージを受けます。
つまり、明治時代から続く由緒ある老舗で、建物も情緒がありますが、一度中へ入ってしまうと、意外に気取らない「下町」の雰囲気も感じられる親しみやすさのあるお店だと思います。



(すべて完食)



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