01ch グルメ食べ歩き
豚組
(東京都 港区)

店名 とんかつ 西麻布 豚組(にしあざぶ ぶたぐみ)
住所等 東京都港区西麻布2-24-9 【地図表示】
禁煙 タバコ分煙
訪問日 2006年8月下旬 ロースのお膳 青空放牧豚(沖縄) 3800円 + 他




〜とんかつ豚組〜



2006年8月下旬 ロースのお膳 青空放牧豚(沖縄) 3800円 + 他

今回は、都内でも屈指の「美味しいトンカツ店」との呼び声が高い、巷で評判の「豚組」(港区・六本木駅)さんを訪問してみました。
実際、インターネット上の「とんかつ系サイト」「グルメ系サイト」などを見る限り、こちらのお店を「絶賛」する記述が多数見受けられます。
しかも、その表現は「豚カツのイメージが変わる」「格が違う」などの最上クラスの賛辞が惜しげもなく贈られているお店なのです。




お店を発見しました。左手に見えるカーキ色の建物です。
乃木坂駅、六本木駅、広尾駅、表参道駅から、それぞれ約8〜12分ほどです。

西麻布交差点(霞町交差点)から、ちょっとした路地を入り、徒歩2分ほどの場所になります。
六本木からほど近いにも関わらず、この辺りは実に閑静な隠れ家的ロケーションなのが良いですね。





風情のある建物は、古い民家を改築したような落ち着いた佇まいですが、創業は2005年3月と、意外にも新しいお店です。
こちらのお店のHPを拝見しますと、「私たちにしかできない『究極のとんかつ』をご提供すること。それが私たち『豚組』の唯一にして最大の目標です。」と書かれています。

外観的には、二階部分の三日月窓が良いアクセントになっていますね。
外壁に蔦(つた)がからまり、どうやら二階まで伸ばす予定のようです。左手に見える黒っぽい屋根の建物は「厠」(かわや)です。




店頭に張り出されていたメニューの一部です。
どうやら、豚肉の入荷状況によって、欠品もあるようです。

実際、この日は「イベリコ豚」や「今帰仁アグー豚」はありませんでした。
逆に、日によっては、ここに書かれていない銘柄豚のメニューもあったりするようです。




入店すると一階席へ案内されました。

店内は素晴らしく手がかかった和風クラシックで、シックな空間です。
見事にウッディで、壁は珪藻壁でしょうか・・・・実に良い雰囲気ですね。

奥に入って来た入口が見えます。左手の一帯が厨房です。




「雪見障子」は緩やかな曲線を描く、とても風流な作り。窓の向こうに竹垣と小笹が見えます。
まるで「大正ロマン」を感じさせるかの如き、素晴らしいインテリアのセンスです。

安っぽいギミック感が絶無で、全く手抜きのない「本物」感に満ちた普請です。名のある旧家を改築したものでしょうか。
今、同じものを建てようとしたら、莫大な金額になると思います。




トイレは、「厠」(かわや)と書かれています。
別棟になりますので、こちらへは一度外へ出てから入ります。トイレの内装も一見の価値ありです。




とんかつのメニュー表です。今日の日付が記されていて、どうやら毎日印刷しているようです。
おそらく、肉の仕入れの具合でメニューが微妙に変わるのでしょう。

こちらのお店は、新しい銘柄豚の発掘&提供にかなり積極的なようで、
「青空放牧豚」、「幻霜ポーク」、「十勝ホエー豚」、「白金豚」、「けんとん豚」などなど・・・・・複数の種類の銘柄豚が揃っています。


ちなみに、この日は2名で訪問しています。
私は、ロースのお膳「青空放牧豚」を注文し、同行者は、食べくらべ「利き豚かつ膳」を注文しました。

本当は、こちらのお店の名物でもあるスペイン産「イベリコ豚」のトンカツを食べたかったのですが、どうやら夏の約二ヶ月間はメニューに登場しないようです。
これは、本国スペインで夏期は屠畜が行われず、それに伴い「生」のイベリコ豚の供給が停止するためだそうです。




飲み物メニューです。
六本木、西麻布と言う場所柄、「飲み」に対するニーズも少なくないことでしょう。




「豚組」のこだわりを解説したパンフレットです。
「お肉へのこだわり」、「食材へのこだわり」など、なかなか興味深く読ませてくれます。




とんかつ以外の、「ご飯、キャベツ、漬物、味噌汁」はお替り自由になっています。
「食べ方3原則」の解説もイラスト入りで判り易いですね。





さて、オーダーをしてから5分ほどで、付き出しが登場しました。写真の一皿で二人前です。

また、暑い日が続く「夏」のランチサービスとして、「夏期間ワンドリンクサービス」が実施されていました。
ビールまたはジャスミン茶が選べるそうですので、冷たいジャスミン茶を頂きました。ジャスミンの香りで口中がリフレッシュして、意外にトンカツに合うと思います。

付き出しのブロッコリーは、やや硬めに茹でられていました。
かけられているソースは「ニンジン」をペースト状に卸したもののようですが、隠し味に「ニンニク」もしくは「タマネギ」を使っているようです。

「ニンニク」もしくは「タマネギ」の食欲を刺激する成分は、これからとんかつを食べる「胃」を奮い立たせる効果がありますね。
「とんかつ」が一層美味しく食べられる「前菜」として、なかなか考えられていると思います。





調味料が三種類提供されました。
左から、「アンデスの岩塩」、「からし」、「豚組オリジナルソース」です。

ソースは、昔ながらの手作り製法にこだわる「太陽ソース」をベースに、豚組ならではのブレンドを施したオリジナルソースだそうです。
ソースパンに入って登場するところを見ると、一食分ずつ調合して提供しているのでしょうか?

ただ、後で感じたことですが、ソースの味は、香りが良く、酸味が利いていて良い感じなのですが、同時に甘口で粘度があるため、マッタリ、モッタリと舌に甘くもたれ、甘酸っぱい、意外に「俗っぽい」味にも感じられました。
実際にカツにかけてみますと、ドロッとトロミがあるため、せっかくのトンカツの衣の立体感を埋めてしまい、肉の旨味も分厚いソースの味と食感に覆われて、包み隠されてしまうような印象でした。

もっと、スパイシーで、キリッとした辛口系のサラッとしたソースの方が合うような気がしましたが、私の食べた「青空放牧豚」以外の他の「白金豚」や「けんとん豚」には、このソースが合うのかも知れません。

また、「塩」は粒が大きくて粗いため、この耳掻き状の小さなスプーンでは、ポロポロこぼれてしまい、かなり取りづらく感じられました。





さて、注文してから約30分ほどして、いよいよ「青空放牧豚」ロースカツ膳が登場しました。
トンカツはかなり「粗めの衣」を「厚め」にまとっています。


いやはや・・・・・それにしても、
この登場の仕方を見ただけで、どれほどこちらのお店が美味しいトンカツの提供に「執念」を燃やしているか・・・・・が如実に伝わって来ます。

まず、水気のあるキャベツはトンカツと一緒のお皿に盛りますと、その水気で、せっかくのトンカツの衣を湿らせて「ベシャッ」とさせてしまう心配があります。
そこで、まずはキャベツは完全に「別皿」で提供しています。

そして、何より驚いたのが、カツをお皿に直接置かず、「銅製」の大きな網を敷いて、その上にカツを「中空」状態にして置いていることです。
うーん・・・・「さすが」ですね、冷たい陶器のお皿は、トンカツにとってまさしく「放熱板」以外の何物でもありません。こうすることで、より少しでも長時間、トンカツをアツアツの揚げ立ての温度に保てます。
さらに、お皿に直接カツを置くと、カツの下面が蒸れてしまい、油も溜まり、衣が「フニャフニャ」になってしまいますが、金網に乗せておけばそのような心配も軽減します。

しかも、わざわざ「銅製」の金網を選ぶとは・・・・・。
「銅」は最も熱伝導率の高い金属です。アルミの約2倍、ステンレスの約13倍も早く熱が伝わります。
そのため、トンカツを置いた途端、一瞬でトンカツと同じ温度まで上昇し、とんかつから熱を奪い取る事が極めて少ないのです。
ここまでやれば、トンカツを陶器のお皿に直接置いた場合との、トンカツの「アツアツ度」維持の時間は比較にならないことでしよう。

ちなみに、理想的な高い熱伝導率を誇る「銅」ですが、何より銅製品は手入れが非常に大変なとてもデリケートな金属です。
手入れを怠ると緑青と言う銅に特有のサビが発生しやすいので、常にピカピカに磨いておかなければなりません。
非常に優れた熱伝導性を持つにも関わらず、あまり普及しないのは、その扱いやメンテナンスが難しいからです。
つまり、「プロとしての自覚」がなければ、使いこなせない上級アイテムです。

また、ここには写っていませんがソース用の小皿が別に一つ提供されています。
つまり、トンカツへ直接にソースをかけますと、衣がふやけ、肉も冷めてしまいますので、食べる直前に「お刺身」のようにチョコチョコと小皿のソースへ浸けて、トンカツを食べて欲しいと言う事のようです。

何とも・・・・少しでもアツアツの揚げ立ての状態で、トンカツを美味しく食べて欲しいと言う・・・・飽くなき「こだわり」に満ちています。





衣は「こんがり」としていて、色合いから判断しますと、おそらく180度位の高温の油で揚げているようです。
それにしても、随分と目の粗い大粒のパン粉です。その大粒のパン粉が重なり合って「衣」に立体的な「厚み」を生んでいます。

なお、「衣」については、お店のパンフレットを拝見しますと、「とんかつでは1時間程度寝かせた二等粉を使用するのが通常ですが、豚組では4時間の長時間熟成を施した一等粉という、特別なパン粉を使用しています。甘みが強く、肉の旨味もしっかりと閉じこめます。」と書かれています。


さて、まずはお店の「食べ方3原則」の解説どおり、何も付けず、カツを一切れそのまま食べてみました。

衣は・・・・「ザクザク」とする強めの歯触りを持っています。
食感がかなり強めで、香りも、味も良く、非常に「立派な衣」と言う印象です。とにかく、お金がかかっている「豪華な衣」・・・・と言う印象ですね。

ただ・・・・それゆえに、随分と「雄弁なる衣」と言うか・・・・・衣としてはやや主張が強すぎるような気もします。
特に「角」の部分や、衣が「密」になっている箇所などは、「ガリンガリン」とするほどに硬めで、特に端っこのカツなどでは、尖った衣の先端が口の内壁に刺さるかと思うほどハード&ソリッドです。

歯を優しく包み込むような「サクサク」とする軽快な感じや、舌の上でとろける「フワリ」とする繊細な感じではなく、遠慮なく「ガリガリ」と歯に当たって来て、噛み砕かれるのに抵抗するかのような、反発するかのような・・・・・結構、「堅固」で「強め」に存在を主張する「衣」です。
この食感は・・・・朝食などの「シリアルフレーク」に、ミルクをかけず、乾いた状態でそのまま食べる時の食感に似ています。

ちなみに「衣」の味は、それ単独でも「一品料理」として食べられるほどに美味しいです。と言うよりも、衣があまりにも「美味しすぎる」かも知れません。
そのため、「衣」の食感の派手なインパクトに、やや「肉」の味わいや食感が埋もれてしまっているような気もします。
「パン粉」からこだわっているお店であるだけに、肉との食感のハーモニーよりも、「パン粉」(衣)の味自体も十分に味わって欲しい・・・・と言うことなのかも知れません。


なお、お店のパンフによれば、使われている揚げ油は、「サクサクの衣、胃もたれしない軽さと食後感の良さを実現するため、高級天ぷらなどでのみ使用される太白ごま油100%で揚げています。体内の活性酸素を押さえる効果のある、健康にも良い油です。」だそうです。

ただ、歯触りが「ガリッ」とか「ザクザク」とするハードな食感からは、まるで「ラード」で揚げているような錯覚を覚えます。
しかし、風味的にはラード特有の獣臭さが絶無で、優しいサラッとした風味で、確かに植物性の油のイメージです。ただ、ゴマを焙煎していない「太白ごま油」ゆえ、芳ばしいようなゴマ風味は控えめでした。





カツの断面を見てみます。
こちらの「豚組」では、カツの厚みを「3cm」ほどと、意図的に厚めにしているようです。

肉は中心部までしっかりと火が通っていて、赤みが残るような状態ではありません。
そして、「赤身」と「脂身」が、見事に「キッチリ」と完璧に二分されていますね。赤身からは肉汁の滲み出しもほとんど見られません。
実は、これぞ、私の理想とする「究極のロース肉」の姿です。

私はトンカツにおいて、普段は「ロース肉」は滅多に食べない、「ヒレ肉」愛好派です。
ですが、こう言う赤身部分に一切の「筋」や「脂」が混じり込んでいないタイプならロース肉も大歓迎です。

要は、世の中のロースカツの多くは、赤身と脂身が不規則に交互に入り組んで、その脂身と赤身がぐにゃぐにゃと不鮮明な肉質は例外なく「ブニブニ」「ブヨブヨ」としていて、その軟体動物のような食感や、入り混じった「スジ」が苦手なのです。
また、そもそも赤身が「霜降り」状になっているロースカツは、食感が柔らかすぎで好きではありません。


さて、実際に食べてみますと・・・・・
まず、「脂身」部分は、口に入れて軽く噛んだ途端、トロトロの熱い脂身が「ジュン・・・・・」と、熱く液状化して舌の上にほとばしります。
その液状化した脂肪分が、口の中でトロけるに従い脂の美味しさがどんどん膨らみ始め、次第に旨味の「閃光弾」の如く光りを放ち、旨味が明るく輝き始めます。

その脂の味は、全く嫌味がなく、ほんわりとする甘味があり、濃度の高い脂肪の旨味とコクをゆっくりと・・・・・解き放った後は、どこへともなく「スーッ・・・」と口の中で溶けて姿を消して行く感じです。

脂身とは言え、「ブヨブヨ」「グニグニ」する感じが絶無で、「噛む」と言う行為を完全に「無用」の物としてしまった無類の口解け感です。
まさに一瞬にして、「ジュワッ・・・・」と液状化してしまいます。もちろん溶けた脂からは臭みや、酸化したようなエグ味は一切ありません。

ただ、少々気になったのは、豚肉に付けられている塩とコショウによる「下味」が、割と強めであることです。
そのため、純粋に「肉の味」や「脂の味」を堪能しようとしても、「塩」と「胡椒」の味が、しゃしゃり出て来て、やや肉の味の前に立ち塞がってしまうような印象があります。

これだけ良質な肉の美味しさを前にして、これは実にもったいないことだと思います。
一度付けてしまった「濃い味」は二度と薄くは出来ませんが、薄い味付けならば客が好みで塩やソースを使いいつでも濃くする事が出来るのですから、あくまで「下味は薄味」で良いような気がします。

ちなみに・・・・世に言う「上質な豚」や「高価な豚」の美味しさは「脂身」にこそある・・・・・と良く言われます。
実際、「肉の味」とは、「脂肪の味」でほぼ決まるそうで、例えば、「牛」「豚」「羊」などの肉の味も「タンパク質」そのものの味は「大差ない」が、「脂肪」の味が大きく異なるゆえに、味わいに差が出るのだと言う栄養学者もいます。

また、「脂肪」とは肉体の「貯金箱」「履歴書」に該当します。エネルギーを貯金するのも脂肪ですが、同時に不純物や有害物質のほとんどは「脂肪」に蓄積します。
時折、新聞などで、マグロ、イルカ、クジラなどの大型の海洋生物について、体内から基準値を超える「水銀」や「ダイオキシン」や「PCB(ポリ塩化ビフェニル)」などの猛毒物質の蓄積が報告されていますが、そのほとんどは筋肉組織ではなく、ズバリ、「脂肪」や「内臓」に蓄積しています。
それゆえ、質の悪いエサや添加物、劣悪で不衛生な環境で育てられた不健康な「豚」や「牛」も、同様にネガティブ要素がすべて脂肪に溜まってしまい、「脂肪が不味い」のです。

ちなみに、この「青空放牧豚」とは沖縄の非常に貴重な在来種である「あぐー豚」の一銘柄で、お店のHPによりますと、「山本大五郎様、たった一人で手がける沖縄在来系の黒豚を放し飼いし、手塩をかけゆっくり育てあげた黒豚です。赤身はきめ細かく、脂身はとてもジュウシーです。」との説明がありました。

「あぐー」は1385年に中国から琉球王朝へ渡って来たとされ、赤身が少なくて脂身が多い黒毛の小型の豚です。一時は生産性の低さから外来種に押され、絶滅の危機にも瀕したそうですが、沖縄の宝として養豚業者が協力し合って復活させたそうです。





カツを広げてしまうと、冷めてしまうので本当は広げたくないのですが、せっかくなので広げて断面の写真を撮ってみました。
一番右側のカツの色が暗いのは、スポットライトから外れてしまったためで、実際には他のカツと同じきれいなピンク色です。

「赤身」部分は、「青空放牧豚」と言うだけあって、よーく運動していた感じで、赤身は全くサシが入らず、「ギュンッ」と引き締まった「マッスル感」のある豚肉です。
肉の厚みもあるせいか「がっしり」とした歯応えですが、決してカチカチに硬いのではなく、「モギュモギュ・・・」と豊かな弾力があり、豚の相当な「筋肉」と言う印象で、実に上質な肉の噛み心地が堪能できます。
やはりトンカツにするなら、これ位の「噛み応え」がある引き締まった肉の方が「肉を食べている」事が実感できて私は好きです。

味的には、いかにも家畜と言う味の抜けたような「水っぽい」肉ではなく、かと言って猪のようなワイルドで獣っぽい「濃い味」でもなく・・・・かなり上品で、ふくよかな食味で、後味も「サラリ・・・」としていて、清々しい感じです。
決してジューシーではありませんが、赤身肉には旨味がたっぷりと内包されていて、噛めば噛むほど、まるでサキイカのように旨味が次々に湧き出て来ます。
キリがないので途中で飲み込んでしまいましたが、おそらく100回以上噛んでも、豚の旨味がなくならないイメージです。

3cm近くも厚さがある肉は、万一「硬い筋」などが混じると食べられたものではなくなりますが、そのような食感を乱すものは一切ありませんでした。
赤身と脂身がお互いに一切干渉し合わず、お互いが完璧に独立しつつも、「良きパートナー」「理想の夫婦」として共存している印象です。


二切れ目は、「アンデスの岩塩」を使ってみたのですが、付属の耳掻き状の極小スプーンでは、大粒の岩塩をすくってもポロポロこぼれてしまい、かなり取りづらく感じられました。さらに、カラカラに乾燥した大粒の塩は、粗目のガリッとする硬くてドライな衣に振りかけてもパラパラと弾かれてしまって、全くくっつかないのには結構なジレンマを感じさせられます。

それではと、直接に肉の肌面にかけますと、塩粒が大きいので、ブツブツと舌に触り、せっかくの滑らかな肉の舌触りの邪魔に感じられます。
塩を微粉末にグラインドして、しっとりとさせた肌理の細かい雪塩(パウダーソルト)を使って、小瓶に入れて振りかけられるようにするか、小皿に「盛り塩」風にして出して欲しい気がします。





ご飯は、米の研ぎ方、炊き方も、「完璧」ですね。
よーく磨かれていて糠臭さは絶無、トンカツに合うようにやや硬めの「パーフェクト」な炊き上がりです。

ただ・・・・・パーフェクトな仕上がりゆえに、「米」の持つ実力が、すべて曝け出されてしまう事にもなります。
お店のパンフによれば、お米は、「茨城県の契約農家が栽培するコシヒカリ100%を、直前に精米し、ガス釜でふっくらと炊きあげています。強い粘りとお米本来の旨味が特徴です。」と書かれています。

実際にかなり美味しいお米ですが、ただ、こちらのお店は、最も安い定食がランチの1650円から始まっていますので、その1650円でも赤字にならない価格帯の「米」と言うコスト的な「縛り」があるのは否めないかも知れません。





こちらは同行者の注文した「利き豚かつ膳」です。五種類のトンカツが少しずつ提供されるスタイルです。
トンカツのお皿だけを変えて、最初に写真を撮らせて頂きました。

やはり、衣が「粗め」&「厚い」のが特徴ですね。
一見しますと、まるで「スライスアーモンド」をまとったクッキーを連想してしまいます。

ちなみに、赤だしの具は「豆腐」と「油揚げ」でしたが、なぜか具の量が極端に少なかったです。
これは食べる「椀物」と言うよりも、口直しの「汁」として位置付けているのだと思います。
カツオダシの適度な旨味の中に、八丁味噌の鋭角的な風味がきちっと利いていて、鮮烈で美味しいです。油の多いトンカツの口直しにピッタリです。

キャベツは、お店のパンフレットによれば、「契約農家で減農薬栽培されたキャベツのみを使用し、ご注文の度に千切りにしてお出ししています。胃腸にも優しく、ビタミンU、Kが豊富なのが特徴です。良好な環境が育んだ天然の甘みをお楽しみください。」との事です。
食べてみますと、歯応えが「シャキシャキ」をもっとソフトにした「サキサキ・・・」「サキサキ・・・」と言う絶妙な感じで美味しいです。

水にはあまりさらしていないようで、キャベツ本来の風味が出ています。そして、単に野菜として甘いとか美味いとか言うよりも・・・・実際に胃腸薬の「キャベジン」のような風味が感じられ、何とも・・・・「薬理効果」のありそうな「薬草」風の味わいがあり、少々驚きました。相当に胃腸に良さそうなキャベツです。
胃腸薬の「キャベジン」はキャベツの葉から抽出した薬効成分を元に開発されたそうです。

小皿の「漬物」は、やや歯応えが硬く、昆布が入っていました。浅漬けなのですが、やや塩味が効き過ぎで、ご飯のおかずとしてはベストですが、トンカツの口直しのサッパリ感を出すためとして考えますと、もう少し薄味でも良いかと思います。





「けんとんロース」「けんとんフィレ」「白金豚ロース」「白金豚フィレ」「岩中豚」の五種類のトンカツが金串に刺されて登場しました。
どのカツが何の肉か判るように、「旗」を立てるのは、とても楽しいアイディアですね。

ただ、各豚肉の「種類」も「サイズ」も異なりますので、一緒に串に刺してしまうと、すべての肉をベストの状態に揚げるのは難しいと思います。
また、金串からも豚肉に熱が伝わりますので、肉の中心部からも加熱されることになります。

こちらのメニューは同行者の注文したものですが、せっかくなので数切れずつ交換して食べました。
「けんとんロース」と「白金豚フィレ」と「岩中豚」の三種について、それぞれ半分ずつに切って分けて頂きました。





こちらは「白金豚」(プラチナポーク)のヒレ肉の半身です。
真ん中に金串の通った穴が開いています。

とても「ホッコリ・・・・」とした肉質で美味しいですが、こちらのトンカツもやはり塩コショウの下味が「きっちり」と効いています。
そのせいで、肉の旨味や甘味とともに、やや塩のしょっぱさが感じられてしまいます。
薄味好きの私としては、やはり、肉本来の旨味が塩気に邪魔されているような気がしてしまいます。

薄い味は自分で塩を足すことが出来ますが、濃い味は薄く出来ませんので、できれば初期設定としては、もう少し薄味でも良いのではないでしょうか。
おそらくは厨房内の「味見」で、一口だけ食べて塩とコショウの「塩梅」を決めた感じで、確かに一口だけならベストな塩コショウの加減だと思いますが、客は丸々カツ全体を食べるのですから、それではトータルでの味付けは濃すぎてしまうことになります。

それとも、汗をかき易い「盛夏」のシーズンであることを考慮して、普段よりも塩分をやや多めに味付けしているのでしょうか・・・・。





こちらは「岩中豚」の半身です。
うーん・・・・美味しいですね。こちらの肉も下味がしっかりと付けられていましたが、この「岩中豚」は、上品な旨味にあふれ、クセがなく、ふくよかで柔らかく、非常に万人ウケしそうな美味しさです。特に、肉にほのかにナチュラルな「甘味」があって非常に美味しいです。

お店のHPによりますと、「岩中豚」(イワチュウポークSPF)とは、岩手県の養豚業者が徹底した安全管理のもとで飼育した「無菌豚(SPF豚)」だそうです。柔らかく旨味が有る肉質、あっさりとした脂身をバランスよく併せ持つ肉質が特徴のようです。
次回、もしメニューにあれば、この「岩中豚」を全量使ったトンカツご膳を食べてみたいですね。





最後は「けんとん豚のロース肉」の半身です。
このお肉もふっくらとして、十分に美味しいのですが、さすがに「青空放牧豚」、「白金豚」、そして「岩中豚」を食べた直後では、肉の食感、味わい、コクなどにおいて、「価格なりの差」を感じる味・・・・と感じられてしまいます。

やはり、値段の差は伊達ではないと言うことでしょう。
たまたまと思いますが、やや筋っぽさがあったのも気になりました。こちらの肉も下味が少々効き過ぎていたように思います。


食べ終わる頃を見計らって、最後に、アツアツの「ジャスミン茶」を出してくれます。
熱いジャスミン茶は、実にサッパリと口中の油を洗い流してくれました。

そして、お店を出てから10分位しますと、お腹の中が「ホワ〜ッ・・・」と温かくなる不思議な感覚があり、とてもトンカツの後味が、爽やかで、温かで、心地良いです。
普段、「とんかつ」を食べた後は、まるで胃の上に「重石」を載せたような胃モタレ感を感じる事が少なくないのですが、こちらのトンカツは酸化した油のもたらす胸焼け、ラードなどのギトギトした重さなどが全くなく、後味は驚くほどスッキリとしています。

これこそが「太白ゴマ油」の効能なのでしょう。
この心地良い感覚は、獣臭い「とんかつ」を食べたと言うよりも、まるで「白身魚のムニエル」を食べたようなライトな感覚です。




さて、食べ終えての感想ですが・・・・・

「私たちにしかできない究極のとんかつをご提供すること。それが私たち豚組の唯一にして最大の目標です。」と言うテーマに向かって、何とも、「やる気満々」と言う印象です。
実際、豚肉、パン粉、揚げ油、米、野菜、塩、ソースなどなど、すべてにこだわり、純銅製の網を使った盛り付けなど、料理の提供の方法にも妥協のない姿勢があります。

食べていますと、兎にも角にも、何重にも「こだわり」が張り巡らされていて、「必ず美味しいと言わせてみせる」というような、お店の強い姿勢が見えて来ます。
いたれりつくせりの味とサービスという印象ですが、ただ、あまりにも美味しい物を出したいと言う「気持ち」が先走って、ついつい・・・・「勇み足」や「力み」とも感じられる箇所も少しですが感じられました。

特に、トンカツの下味などは、肉質も、パン粉も、揚げ油も・・・・厳選素材を使っていますが、さらにもっと美味しくしようと・・・・・ついつい塩もコショウも多めに入れてしまったという「勇み足っぽい」印象も受けるほど、客を満足させることにサービス精神旺盛で、非常にポジティブなお店だと思います。

こだわりの旺盛さは、味噌汁のお替りなどでも感じられました。
せっかくだからと、途中で、「ご飯」と「赤出汁」のお替りを一回だけお願いした際、ご飯はすぐに持って来てくれたのですが、赤出汁は少々お時間がかかりますとのことで、2〜3分の待ち時間がありました。
そうして登場した赤出汁は、かなりの「熱々」の状態でした。おそらく、数分かけて小鍋で「再加熱」して、一杯ずつ熱々に仕上げて提供しているのでしょう。
その姿勢は立派ですが、客の実際の食事シーンにおいては・・・・他のトンカツやご飯が既にある程度冷めているところへ、いきなり「熱々」の味噌汁がお替りで登場してしまいますと、その温度差に面食らってしまう面があると思います。

とは言え、これらは単なる「調理のブレ」とも取れる些末なことであり、まだ創業してから一年半ほどと言う「若い」お店で、「初志」の高さを「貫徹」し、ここまでのレベルに到達していれば、全体としては文句なく「賞賛」に値するお店と言えるでしょう。

ラーメンやカレーなどと比較すれば・・・・いわゆる「老舗店」が幅を利かせ、あまり「創作系」「ニューウェーブ系」の台頭する余地が少ないトンカツ業界において、2005年創業と同時にめきめき頭角を現してきた、まさしく「新世代」の期待のホープ・・・・と言う印象です。

全国行脚で、美味しいプレミアム銘柄豚を次々に発掘し続け、国内に留まらず外国からも高価なイベリコ豚を輸入し、毎日、メニュー表を書き換えて提供する・・・・・など、「老舗店」では、なかなか重い腰が上がるものではないと思います。

しかも、西麻布と言う場所に存在する「究極のトンカツ」を謳うお店でありながらも、決して尊大に構えた雰囲気ではなく、接客もフレンドリーで丁寧、家庭的な雰囲気も感じられ、大変好感を覚えます。
素晴らしい造作のインテリアや隠れ家的なシチュエーションと相まって、とても印象に深い居心地の良いお店でした。



(すべて完食。)










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